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日本の真のパートナーは?=村野氏の本『南米の日系パワー』

2月28日(土)

  【東京支局】著者村野英一氏は、一九九九年から二〇〇二年まで朝日新聞社サンパウロ支局長として南米に滞在。だが在任中、ペルーのフジモリ政権崩壊、コロンビア邦人誘拐、米国同時多発テロで長期出張、アルゼンチン経済危機と取材がつづき、「ブラジルについて思うように書けず帰国した」という。 
 本書は、数多くの日系人に会い、対話を重ねた当時の記録を中心に、現地で収集した資料、新聞に掲載記事に最新の情報をもとに、書下ろしされた。
 ある金曜日の夜、著者は高級住宅街にある社交クラブを訪れた。メイン会場のダンスホールでは、数百人の若者が軽快なステップで踊り、ポルトガル語の歓声が飛び交ってい。しかし、光を受けて浮かびあがるのは日本人の顔をした日系人の若者たちで、そのパワー圧倒された。
 日系三世たちには、戦争時に敵国人として重荷をになった二世とは違い、日本的なものを望み、日系人であることを誇りに思っているものが多い。出稼ぎ者が、日本の最新情報をもたらした影響も大きい。
 著者は、社会的地位を築く日系人が増加するなかで、日本政府が各国日系社会との関係を生かせずいる実情を指摘する。イスラエル、中国などは、本国社会が移住民族との間に各分野で有意義な関係を構築している。英国と英連邦各国の結びつきの強さは説明するまでもない。
 日本政府は、南米に多数の移民を送りながら、移民とその子孫を支援する体制が整わず、日本の国際化にとって有益な人的を生かせずにいる。
 ドイツ系の教育への評価はとくに高い。日本語教師の派遣もここ十数年は盛んになったが、ドイツ系よりも立ち遅れていることは明らかだ。「日本政府は二十一世紀に踏み込むまで、外国にいる日系人を外国人労働者の予備軍として位置付けるだけにとどまり、より大きな価値観を見出そうする努力は明らかに不十分である」と著者は述べる。そして「南米日系社会への関心の低さは政府だけでなく、マスコミにも責任がある」と指摘する。
 本書は「日本にとっての真のパートナーとは誰か」を問いかける。そして日本にとって重要なパートナーは、ブラジルをはじめとする南米日系人であると提言する。(出版社・明石書店 定価一八〇〇円+税)

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