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拘置70日「恐怖の連続」=父親殺害容疑晴れる=カナシロさん事件の真相語る

5月13日(木)

 昨年十二月二十三日、日系二世の父親カナシロ・シンキさん=当時五十九歳=を殺害した疑いでピニェイロス拘置所に拘留されていたカナシロ・サユリ・シベーリさん(二五)の容疑が三月初旬、晴らされた。共犯容疑のラモン・フリアス容疑者(二三)が単独犯行だったことを認めたためだ。五日、ニッケイ新聞社のインタビューに応じたカナシロさんは「ようやく安心して眠れるようになった」。家族で「母の日」を祝える幸せをかみ締めた。
 シンキさんはサンパウロ市ヴィラ・サンタカタリーナの自宅アパートにいたところ刃物で胸など数箇所を刺され死亡した。カナシロさんの元恋人ラモン容疑者と口論の末、殺害されてとみられている。容疑者は十一日、実地検分に立ち会った。
 カナシロさんは容疑者と〇〇年から同棲。二人は男児をもうけたが、容疑者が薬物中毒であることが発覚。執拗に別れを迫ったが同意を得られなかったという。容疑者はサンパウロ州内陸部の更正施設に入った。
 昨年十二月に施設を出たラモン容疑者は、男児を取り戻しにカナシロさんの父シンキさん宅を訪問。殺害事件に発展。カナシロさんは事件前日にラモンから脅されていた。カナシロさんは事件発生時刻の午前零時過ぎ、自宅に帰ってきたが、玄関口で室内から物音がするのに気付き、怖くなって近所に住む恋人のエドワルドさんに助けを求め、一緒に警察に行った。
 カナシロさんの顧問弁護士を務めるトヨタ・オスカールさんは、「不当に拘置されたが一貫して無罪を主張してきたことが実った」と、カナシロさんをねぎらう。
 本紙取材対しサユリさんは「アリバイは初めからあった。事件前に、スーパーマーケットに行きその後エドゥと会い、一緒にタイヤの修理屋に行った。そしてマクドナルドでランチを買い、エドゥの家で食べ、それから自宅に帰った」と、身の潔白を改めて強調。
 カナシロさんの顧問弁護士を務めるトヨタ・オスカールさんは「不当に拘置されたが一貫して無罪を主張してきたことが実った」と、カナシロさんをねぎらった上で、「警察は事件発生の二時間前に、カナシロさんが買い物をしたスーパーマーケットの、監視カメラに残されている映像記録テープや購入時間が記録されているマクドナルドの領収書など証拠固めをしないで、直感だけで拘置した」と憤慨する。
 カナシロさんは落ち着きを取り戻しつつあるいまも、悪夢に襲われることがある。「七十日間の拘置は恐怖の連続であり、最も辛かった日はDHPPに拘留された時だった。父親殺しの罪を着せられたが訳が分からず、また子供のロドリゴが泣きながら帰って行く姿に、どうすることもできなかった。無罪である自覚とお父さんの顔を思い出して、なんとか耐えた」
 いましたいことは何か。
 「事件の五日後に日本から飛んで帰ってきてくれた母親が世話をしてくれている子供と一緒に住みたい」
 カナシロさんの釈放を命じたサンパウロ市第一法廷のルイ・ポルト・ジアス陪審官は「物的証拠品を丹念に調査していれば、無罪であるのは明白だった。だが、この事件の前に、リヒトホーフェン夫婦が娘とその恋人に殺害される事件が発生していたのも、カナシロさんに不利になった可能性もある」としている。
 また「捜査官は一度として、カナシロさんやエドゥアルドさんの供述に耳を貸そうとしなかった。容疑者に仕立てあげられたカナシロさんこそ、父親と同様に被害者である。だがサンパウロ州を相手取って名誉棄損の訴訟を起こしても、最終判決がでるまで六カ月はかかるだろう」とジアス陪審官。
 ラモン容疑者の自供で、釈放されたカナシロさんだが、受けた精神的苦痛や傷つけられたイメージを消し去ることは容易ではない。

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