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「憩の園」在園者の作文集=『お母さんの思い出』=心の底の思い外に出す=精神的リハビリに効果=日本語学校の教材にも

5月18日(火)

 「お母さん、ごめんなさい、許してください」──。救済会(左近寿一会長)が運営する老人ホーム、憩の園(グアルーリョス市)で、『お母さんの思い出』と題した作文集が三冊にまとめられている。母親に対する感謝や悔いなどを綴ってもらおうと、JICA派遣のシニアボランティア、清岡弘子さん(六七、高知県出身)が発案したもの。心の奥底にある思いを外に出すことで、精神的なリハビリにもなっているという。
 清岡さんが作文集の発行にとりかかったのは、母、駒寿さんの死がきっかけ。昨年九月に、危篤だという知らせを受け、一時帰国、一週間ほど看病に当たった。
 快方に向かっていると思って、ブラジルに戻ったところ、空港に着くなり、訃報を聞かされた。葬儀に出るため、その日の便で日本に向かった。
 「もう一日、日本にいればよかった」と清岡さん。「生前は意識していなかった思いがどんどん、込み上げてきて、すまなかったと心の底から後悔しました」と声を詰まらせる。
 憩の園の入所者も同じような経験をしているのでないかと思って、母親について文章を書いてもらうことにした。
 一人でペンを握れないお年寄りについては、何回も聞き取り調査をして、清岡さんが代筆した。「作業を進めるうちに、高齢者自身のことを深く理解できるようになった」。 
 母親の苦労を労って、故人の冥福を祈るのが、主な内容だ。両親に内緒で渡伯、その後、生き別れになってしまったことへの悲哀なども綴られている。この作文がもとで、自分史の執筆を始めた人もいるそうだ。
 清岡さんは「長年の悩みを文字に表すことで、気持ちが晴れ、何にでも挑戦しようという姿勢がみられる」と満面に笑顔を浮かべて話す。
 第一号から三号までそれぞれ、五十部ずつ発行された。日本語学校の教材として使われているほか、サイトでも紹介され、日本からの反響も大きいようだ。
 作文集は第三号で完結し、次は俳句や自分史を残したいという。任期満了で六月に帰国することになる。清岡さんは「JICAとは関係なく、来年また、来ないとだめかな」と力を込めた。 

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