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記者の眼=「移民」に畳み込まれた喜怒哀楽=差別用語ではなく「誇り」の語感も

6月4日(金)

 「移民」という言葉は差別用語か? この五月三十日にNHKホームページの問い合わせ欄にこの質問をしたところ、三日午前九時、東京の同社考査室の亀田勝太さんから、実に丁寧な回答の電話をもらった。ニッケイ新聞社から日本の各種団体に問い合わせをすることは多々あるが、わざわざ電話をしてくるところはほとんどない。
 結論から言えば、「移民という言葉は、使ってはいけない言葉ではありません」とのこと。同社には放送禁止用語リストというものも存在せず、適時、番組製作スタッフが判断するという。
 実は、そんな質問をNHKにしたのは、サンパウロ人文科学研究所の元所長、宮尾進さんが以前、同社のブラジルからの生中継番組に出演した時、同社スタッフから「移民という言葉は使わないで下さい」と注意されたと聞いたからだ。「移民という言葉は、棄民に通じるような印象をもたせるからダメ」との説明をうけたという。
 宮尾さんは「移民は差別用語じゃない」と主張し、結局、宮尾さんだけ使ってもいいということで、他の出演者は〃移住者〃という言葉に置き換えた。宮尾さんは「プラッサで聞いてみたらいい。あなたは移民ですか、移住者ですかって。みんな移民って答えるよ」と二つの言葉にニュアンスの違いがあると強調する。
 「移民の日」「アマゾン移民」「ブラジル日本移民百周年記念祭典協会」など、移民という言葉は、むしろ誇りをもって使われているのが実情ではないだろうか。この言葉が邦字紙上に現れない日は、一日たりともないといっても過言ではない。
 NHKの亀田さんは、放送禁止用語リストがないため、番組スタッフによって若干の温度差があることは認めた。「以前、ある番組の中で〃移民〃という表現をしたら、『移民した人を傷つける言葉だ』と抗議をうけたことがあります。『棄民のニュアンスがあるから使うべきでない』とのご意見でした」と亀田さんは説明した。
 その抗議が、なんらかの影響を与え、前記の宮尾さんの経験につながった可能性があるようだ。
 使うと嫌がる人や、傷つく人がいる言葉は、もちろん差別用語として、慎重な使い方をする必要がある。ただし、「南米の方が誇りを持って使っているのであれば、まったく問題ないでしょう。むしろ、誇りのニュアンスがあって、その言葉でしか表現できないのであれば、なおさらです」と続けた。
 ちなみに、時事通信社サンパウロ特派員事務所に問い合わせたところ、同社でも「使っても特に問題なし」とのことだった。日本のマスコミのほとんどは、同社の配信記事を使用していることを考えれば、やはり差別語とは考えにくい。
 ただし、日本在住者が持つ「移民」という言葉の語感と、移民自身が持つイメージがずれている可能性もある。もしかしたら、移住したがうまくいかず帰国した人の中には「移民」という言葉を聞きたくもない、差別語だと感じる人がいるかもしれない。件のNHKに抗議した人は、どうだったろうか。カフェザルや植民地での辛い日々の思い出だけが、その言葉から想起される人も中にはいるだろう。
 単純な話、移住して成功だったと思える人と、失敗だったと後悔する人では、同じ「移民」という言葉を聞いても、違ったニュアンスをもって理解する。
 何気なく使う「移民」という言葉。一生を賭けて取組む大事業だけに、良くも悪くも、幾重にも畳み込まれた喜怒哀楽が込められていることだけは、確かなようだ。 (深沢正雪記者)
 

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