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綱渡り 海外での選挙戦=高倉さん、サンパウロ市で遊説=合法・違法の線引き、不透明

6月24日(木)

  五里夢中の選挙戦――。第二十回参院選が二十四日公示される。在外投票が認められた過去三回の国政選挙では、身近な候補者や政党が少ないこともあり投票率は低迷、盛り上がりを欠いた。そんな現状を打破し、在外邦人の声を国政に、とパラグアイ在住の高倉道男さんが自民党の比例代表候補として出馬する。大票田のサンパウロでも二十七日に遊説する高倉さんを盛り立てようと支持者らはあの手この手の対策を検討中だ。ただ、日本の公職選挙法が複雑な上、外国人の政治活動などを定めた「外国人法」など配慮するべき点が多いだけに、「していいことと悪いことの線引きが本当に難しい」と関係者も頭を悩ませる。事実上初めてとなる海外での選挙活動は、綱渡りにも似た危うさを孕む。
 ■複雑な公選法
 「そもそも前例がないからねえ」。サンパウロ総領事館の大熊博文領事は思わず返答に詰まる。
 仮に買収など違反行為があった場合はどこが取り締まるのか――様々な選挙違反を取り締まる日本の警察だが、ブラジルなど海外では捜査権がない。
 買収、選挙妨害などを「国外犯」として裁くという規定は公選法にもあるが、具体的にはどこが取り締まるのかなどは不明。愛知県警から出向中の大熊領事も、「前代未聞」の海外での選挙活動は、未知の世界だ。同総領事館は選挙を管轄する総務省に照会中だが、まだ回答はない。
 また、日本で印刷した選挙ポスターやパンフレットを、ブラジルで配布すると国外犯に該当するが、ブラジルで印刷したものなら問題はない、と総領事館は説明する。
 ■外国人法の壁
 「この法律の存在が一番厄介だ」。多くの関係者が口を揃えるのが、ブラジル国内での外国人の活動を規定した外国人法だ。一九八〇年の軍政時代に成立したこの法の百七条は三項からなり、外国人は政治的な組織や会を作って行動してはならない――などとしている。
 昨年から参院選出馬に向け、何度か来伯し理解を呼びかけていた高倉さんの行動について一部メディアは「外国人法に抵触する」などと批判。また、公認後に「日系人代表を国会に送る運動サンパウロ支部(網野弥太郎支部長)」がブラジルの政治に詳しい、野村ジオゴ元連議に尋ねた際にも「外国人法には気をつけたほうがいい」と慎重な活動を勧められた経緯があった。
 網野支部長ら関係者は五月にサンパウロ総領事館を訪問、高倉さんがブラジルで選挙活動することについてブラジリアの高等選挙裁判所(TSE)に照会するよう要望していた。
 ■法的には問題なし
 日本の選挙運動をするぶんには何の問題もない――二十一日に日本大使館を通じて同領事館に入った回答は、高倉さんに「お墨付き」を与えるものだった。<ブラジルに在住する日本国籍者およびブラジル国籍者(日系人)がブラジル国内で日本の選挙活動をしてもブラジルの国法に抵触しない>――というのがTSEの結論だ。関係者は「ようやくスッキリした。これで弾みがつく」と胸を撫で下ろした。
 「ブラジルの政治経済に干渉しない限り問題はない」と複数の弁護士が見解を示した通り、高倉さんが遊説する点は問題がないわけだ。
 一方で懸念材料も残る。百七条の第一項にある「外国人は政治的な組織や会を作って行動しない」という項目に、「日系人代表を国会に送る運動」そのものの存在が抵触する可能性もあるという。
 「密告される可能性がある、とある弁護士から指摘されました」と網野支部長。このため、二十七日に高倉さんがサンパウロ入りしても、念のため支部としては目立った活動は控えるという。
 「全世界の日系社会を代表する以上、どこからも文句がつかないクリーンな選挙戦をしなければ」。網野支部長は力を込める。七月十一日の投開票日まで、関係者の奔走は続きそうだ。

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