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ブラジルの感覚 指先に=バークリー音楽院卒・ギター奏者の髙杉さんに聞く=一年滞在「ライブ活動も」

6月24日(木)

  東京都内のジャズクラブを中心に活動するギター奏者で作曲家、髙杉圭さんが一年間の滞在を見据え来伯した。米国ボストンの名門バークリー音楽院を卒業。名うての奏者との共演など着実にキャリアを積んできたが、「今年二十九歳。さらに表現の領域を広げたいと思った」と語る。
 ミナス・ジェライス州のポピュラー音楽が持つ、独特のハーモニー感覚に対し賞賛を惜しまない。ギター奏者で言えば、トニーニョ・オルタ。グラミー賞歌手ミルトン・ナシメントらと一派をなしブラジル音楽に楔(くさび)を打ち込んだ存在だ。
 ブラジル音楽の要素を積極的に取り入れたジャズ。それが髙杉さんの目指してきたスタイルだ。最近は月間で二十本ほどのライブに参加し仕事は順調。ただ、行き詰まり感があった。
 「日本でやっていると十年後が見えてしまって。ライブの数をこなすことが目的ではないので、三十代を前にアセリもあった」
 向こう一年の仕事の予定をすべてキャンセル。かねてから魅了されていたブラジル音楽を本場で見聞きし、表現に新たなアプローチを見出したい。そう考え二十一日単身で来伯した。音楽家との交流、ライブハウスでの演奏活動、作曲、レコーディング……頭の中には早くも今後の計画が渦を巻いている。
 あるか、ないか。才能の有無が左右するのが芸術の世界。ニューヨークのジュリアードと双璧を成す名門バークリーに入学できたのは才能の証か。
 「そんなことはない。入学時の間口は案外広い。だが、卒業率は極端に低い」。壁に突き当たって音楽家の道を諦めるもの。将来を嘱望されてスカウトされるもの。いずれの理由にせよ多くの生徒が学校を中退していく。
 世界中から音楽家の卵が集まりしのぎを削りあう。日本人生徒との割合は高く、ほぼ十人に一人を占める。髙杉さんはそんな中で「優等生」だったのだろう。卒業後、日本人入学希望者の世話を焼く重責を学校から任されている。
 だが、本人は「日本で一線を張る若手奏者のほとんどはバークリー出、たまたま」と謙遜する。
 九五年から四年間在学。オルタの弟子で、最近フランスでデビューを飾ったカルロス・ベルナルドが同級で刺激を受けた。ブラジリアン・アンサンブルの授業では、実力派で知られるブラジル人歌手ルシアナ・ソウザに習ったという。
 留学中、ボストンに二度、オルタが公演に来た。いや、来ることになっていた。「いつも土壇場でのキャンセル。ブラジル人ってみんなそういう人なんだと思っていた」と笑う。
 サッカーで有名な静岡県藤枝市の出身。

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