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デカセギ=労災保険の知識欠如=正当な補償受けられず=右手指5本失って慰謝料と航空券のみ

7月16日(金)

  派遣会社を通した間接就労をするブラジル人の労務災害の実態は明らかではないが、〇三年の愛知県労働基準局の統計では、一千百十六件のブラジル人の相談が記録されている。労災制度に対する知識が足りないために、正当な補償が支払われていないケースがあると十日付けインターナショナル・プレス紙は報じた。
 浜松市の石川エツオ(42)弁護士は「外国人不法労働者であっても、労働中の事故で、医師証明書があれば、労災保険が適用され、労災保険金が支給される。しかし情報不足のために、一部のブラジル人労働者は障害補償年金ではなく、一時金などしか受取っていない」と説明した。
 ブラジル人の労災知識の欠如に加え、工場と直接契約を結ぶ直接雇用でなく、派遣会社を通して不正規な労働形態で働くデカセギが多いため、労災が起きた場合に派遣会社が隠蔽しがちな傾向があると以前から指摘されている。
 ブラジル人カワシマ・アキコ(24)さんは、来日七カ月目に三重県の自動車部品工場で、プレス機に右手を挟まれ、指五本を失った。その補償として支払われた、工場が六〇%、斡旋業者が四〇%を負担した慰謝料に不満をもっていた。
 それは「労災事故にあったとき、ブラジル人仲間から五本も指をなくしたので、働く必要がないくらい慰謝料がもらえると説明を受けていた」と述べた。
 しかし斡旋業者は仕事ができなくなったアキコさんに、「ブラジルへ帰国するなら、無料で片道切符を提供する」と言った。また同じ工場でグループ主任をしていた母親が、アキコさんが継続して働けるように、会社側と交渉したがアキコさんは解雇された。
 アキコさんは事故の後三年かかって、労災保険の障害補償給付の認定を受けた。
 アキコさんが同給付を受けられるようになったのは、腕切断のリスクがあった入院中に、病院の理事から日本人弁護士を紹介され、保険申請手続きをし、受理されたため。また弁護士の紹介で、日本語学校の職員として働いている。
 障害補償認定者のアキコさんは、近距離乗車無料の障害者手帳をもっており、健康保険料、家屋税、所得税、車両税、航空運賃、映画観賞や文化イベントの特別割引の恩典が与えられている。
 また静岡県裾野市のヤエカシ・ヨシオ・シルヴィオ(45)さんの場合はアルミ加工用のプレス機で左手の指四本を失った。一年二カ月の治療後、障害補償給付金を受け始めた。その後仕事を探すために職業斡旋会社を数社訪問したヨシオさんに、担当者は相談拒否こそしなかったが、障害者にはまず仕事が見つからないと説明した。そして事故から三年後に、やっと人事分野での仕事が見つかった。

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