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バタタ60俵援協に寄付=井上

9月23日(木)

 過日、本紙の編集局から電話があって、拙作『うつろ舟』を掲載したいが、どうかと伝えてこられた。事の意外さに驚き即答しかねて、幾日かの猶予をお願いしたのは、あまりにも晴れがましい事態に、作者が気おくれしたのであった。
 作者が自作について語るのを、嫌う人もあると聞いた(当然のことだが)、しかし、これは拙作の来歴についてなので、許されることと思う。
 『うつろ舟』は『コロニア文学』二十七号より四十七号まで分割して発表した作品で、「コロニア文芸賞」をうけてからでも、十幾年がすぎている。いわゆる旧作ではあるが、コロニアでは最初の長編ものであり、伊那さんからは何回となく過分な評価をしていただいている。拙作が誰の手から渡っていったものか、日本でも芥川賞作家、岡松和夫氏が『文学界』に精神的武者修行の作と評し、近頃、黒川創氏が『国境』で肌ざわりの違う日本文学との感想を述べられている。
 作者が自作の芸術について、語るのは慎むべきだが、この度、『うつろ舟』が本紙に掲載される機運にめぐまれ、江湖の諸賢にまみえ、さいわいご愛読をたまわれば、米寿にもなった作者の格好な置土産にでもなるであろうかとも思っている。

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