ホーム | 日系社会ニュース | サンパウロ州の刑務所管理を担う=古川長官は日本人気質=気さく、運動会では下働き=犯罪組織からの脅迫=私生活は警備なし「別に恐くない」

サンパウロ州の刑務所管理を担う=古川長官は日本人気質=気さく、運動会では下働き=犯罪組織からの脅迫=私生活は警備なし「別に恐くない」

4月1日(金)

 刑務所で暴動が起きると、この人がテレビに映らない日はない。現場に駆けつけた報道陣に、事件の展開や刑務所管理のあり方を追及され、取材に応える表情が時に歪む。しかし──。仕事を離れれば、一人の日系人男性。両親に明治の日本人気質を叩き込まれて、育ったためなのか。エリート社会に身をおく今も、地元ブラガンサ・パウリスタ連合日本人会の運動会では、自らグラウンドに出てトラックラインを引く。古川長サンパウロ州刑務庁長官に、ブラガンサへの思いなどを聞いた。
 サンパウロ市サンジョアン街。古川長官の執務室は、ビルの最上階、十階にある。
 今月三十日午後五時。室内に通された後も電話が鳴り、刑務所のシステムについてやり取りが絶えない。ついこの前も、ピニェイロスの刑務所で暴動が起きたばかりだ。同長官の表情も渋い。
 それが、用件が済んで受話器を置くと、一転。親しみのこもった笑顔に変わった。「遅れて、申し訳ありません」。流暢な日本語での応対だ。
 友人、辻正夫さん(59、香川県出身)の言葉を思い出した。「古川長官は私たちから見れば、雲の上のような人。でも、とても気さくな人なんです」。
 プレジデンテ・ベルナルデス生まれの五十六歳。五十一年間を、ブラガンサ・パウリスタ市で過ごしている。父チュウスケさんは岩手県出身(一九二九年渡伯)、母フジエさんは愛知県出身(一九三七年渡伯)。二人とも故人だが、自身は愛知県人会の会員。
 ブラガンサはかつて、バタタの栽培で栄えた。父は中規模の農家だった。幼い頃は学校の合間にマンゲイラを担いで、農薬を散布した。父は、「勉強熱心で国内、国際政治の書籍などをよく読んでいた」。
 時間厳守、勤勉、正直といった、日本的な価値観を教え込まれた古川長官。大きな楽しみが、運動会だったという。「昔は、パルチーダ(競技のスタート)の緊張感が好きだった。今は年をとったので、もっぱら魚釣りゲームが専門ですけど…」
 子供たちも運動会が好きで、毎年参加している。出世した今、来賓者として迎えられるのが普通かもしれない。「日本人会の創立会員(ソシオ)だから、皆と一緒に働きたい」と志願。準備のためにグラウンドに出て、白線を引いている。「時間が許す限り、総会などにも出席したい」。
 週末を過ごすのは、ブラガンサの自宅だ。旧コチア産業組合に勤務中(六四年~七二年)に磨いた日本語力で、一世移民と世間話(バッテ・ポッポ)を楽しむ。
 仕事柄、犯罪組織から脅迫を受けることもある。私生活で、警備は付けていない。「別に恐くない。人間誰しも、死にます。ケネディ大統領(米)だって、撃たれましたから」。ある意味で、悟りを開いた境地なのだろう。
 退職したら、故郷に戻るつもりだ。そもそも、法曹界を志したのは、地元に法科大学しかなかったからだという。
 故マリオ・コーヴァス知事に引っ張られて、刑務庁長官になった。「アルキミン知事の任期が切れるまで、この仕事を投げ出すつもりはありません。〇六年十二月まで責任を果たす」。そう力を込める古川長官。日本人気質が備わっているからかもしれない、とニッコリした。

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