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記者の眼=健闘した「反上原」陣営=百周年向け勝負はこれから

4月30日(土)

 文協会長選挙の本当の勝者は誰か?――。二十八日、決選投票二日前になって突然、百周年協会理事長でもある上原幸啓文協会長は、自らの最大の旗印であったヴィラ・レオポルジーナ案を撤回した。
 最大の争点であった同案を引っ込めることで「切り札」を出した訳だ。いや、最後の最後にきて、出さざるをえない状況に追い込まれた、と言うべきか。
 谷陣営、下本陣営ともに当初からレオポルジーナ案撤回を最大の選挙公約にしており、今まで上原氏はこの点に関してだけは他陣営と連立を協議する際、絶対に譲らなかった。
 この判断の裏には、上原陣営内で複数の現職理事らが撤回を主張するなど、かつてない大きな地殻変動があったようだ。谷候補の辞退により決選投票は避けられたが、ここまで大騒ぎしなければ身内の意見やコロニアの声に耳を傾けなかった上原氏は、自らの頑迷さを大いに認識すべきだろう。
 勝敗の行方を左右する下本陣営の存在感、法廷闘争にまで持ち込もうとした谷陣営の闘魂なくして、レオポルジーナ案撤回はありえなかった。
 その意味では、勝利者は反上原陣営だろう。特に、第一次投票で断然トップの得票を勝ち取った谷氏の健闘ぶりは特筆に価する。彼の存在なくして、今回の盛り上がりはなかった。
 本紙は今回の選挙が「コップの中の嵐」でないかどうか検証するために、二十九日付け「地方に危惧の声」記事において各地の団体代表の声を聞き、予想以上の関心の高さに驚かされた。
 つまり、この話題は決してサンパウロ市周辺だけに留まるものではなかった。間接的に百年祭理事長を選ぶ選挙として、全伯関係者の関心の的になっていた。
 百年祭に向け、全伯の注意を喚起した。それだけで充分に、今回の選挙の価値はあったと言える。
 第一次選挙での不手際や、選挙管理委員会への不信感などを問題があり、不平不満、不公平感のつのる場面が生まれてしまったことは残念だが、選挙運動を通して一世、二世はそれぞれの持ち味を存分に発揮した。
 どんな選挙でも、全員が満足する結果はありえない。撤回を勝ち取ったことで、反上原陣営の公約は果たされた。
 そんな単純な話ではない――との意見もある。しかし、大事なのは、みなで百周年を成功させること。世代を超えた、ブラジル社会に誇れる立派な祭典を全伯で実現することだ。
 選挙を一つのイベントとして考えれば、大成功だった。三陣営が軸となって、かつてないほどの多様な層の関心を掘り起こしたからだ。その要領で、さらに大規模な動員を百年祭ではやる必要がある。
 今回の選挙は、誰かを選ぶという意味は二の次にして、百年祭に向けた貴重な経験、練習になったとも言えないだろうか。
 むしろ、これからが〃本当の勝負〃の始まりだ。全員が百年祭に取組めるよう、早々に気持ちを入れかえたい。真の勝者は、コロニア自体でなければならない。
 事実、百年祭のイベント企画、事業立案、大衆動員、資金集めなど本来の仕事が目白押しだ。そして今年最大の節目、ルーラ大統領訪日もわずか一ヵ月後に控えているのだから。
  (選挙特別取材班)

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