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コラム 樹海

 政界というとあまり評判はよくない。魑魅魍魎が跋扈し権謀と術策が蠢くが、どんな汚穢に満ちた沼や池にも凛々しい白蓮は咲く。静かに吹き寄せる微風が蓮の香りを運び汚濁に満ちた世を忘れさせ紅と白い花は目を楽しませる。水面に浮かぶ蓮の花は汚れた池や沼を清めるかのように美しく気高い。そんな一本の蓮の花が政治家・野村丈吾氏である▼政治を志す向きには「目立ちがり屋」が多い。所謂、口八丁手八丁組だが、野村氏には無縁のことであり「政治にロマン」を追い続け―50年に及ぶ政界暮らしであった。活動に派手さはないけれども、外国人登録の切り換えやセラード開発に際しての活躍はもっともっと語られていい。政治家としての動きは地味だが、燻し銀の光りに輝く重みのある渋い存在であった▼政界を引退しても「政治への夢」は消えない。先の文化協会のゴタゴタ騒動でも顔を出し邦字紙の記者を招いてなんとか両方を収めようと尽力もする。恐らく一世と二世・三世との考え方の違いや価値観の相違を誰よりもよく知っていた最後の人物ではあるまいか。生まれはレジストロでブラジル人だが胸の奥には日本の血も生きている▼下院では外交委員長になり幅広く外国との交際に努め日本だけではなく韓国との関係強化にも尽力した功績は大きい。なお、野村氏は戦後初めて来伯した海上自衛隊の練習艦隊を率いる伍賀司令官と親戚でブラジル海軍についても該博な知識があり何回か話を拝聴することがあったのも懐かしい。日本から勲一等瑞宝章に叙勲される。多臓器不全による肺炎で死去。85歳。 (遯)

05/5/21

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