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セラードの生態系を守れ=―JICA協力、動物の移動経路確保へ―=連載(5)=意欲あふれる専門家達=「結果を出さなければ」

5月24日(火)

 プロジェクトのオフィスは、IBAMA本部(ブラジリア)内にある。コンピューターやテーブルなどが所狭しと並び、大学の研究室を匂わせる。
 環境保全の話題になるとやはり、城殿博さん(愛知県出身)は熱い。ブラジリアから現地に向かう車中、約三時間、言葉が途切れることはなかった。七九年に、北大大学院博士課程(農業生物学)を終了。〃大志〃があるのだろう。
 青年海外協力隊員・専門家として足掛け五年半、パラグアイに赴任したのが、JICAに足を踏み入れたきっかけ。アスンシオン大で、学生相手の実習や農作害虫の調査などを手掛けた。「日系の大豆農家と仕事をしたこともある」。
 同国を皮切りに、米州機構傘下のIICA(米州農業協力機構)本部、コスタリカの生物多様性研究所でJICAの事業に携わってきた。一九八六年から国際協力専門員。東大と法政大でも非常勤講師を務め、中南米での協力は足掛け十三年のエキスパートだ。
 セラード生態コリドー保全計画で、チーフ・アドバイザー。活動地域全般の調整や評価などが主な仕事になる。IBAMAを始め、州政府、NGO、地元住民などプロジェクトに関わる官庁や団体、個人が多いため苦労が絶えない。「ブラジルは政権が交代すると、人事ががらりと変わりますから…」と明かす。
 取材中、城殿さん本人が会議などの表面に出て仕切るのではなく、裏方で〃実働部隊〃を支えているような印象を受けた。〃監督〃とでも、表現すればよいだろうか。
 「私たちは、ビジネスマンです」。もう一人の長期専門家、浅野剛史さん(岐阜県出身、33)はハッキリ言った。
 当初、IBAMAゴイアニア支局に配属され、シャパーダ・ドス・ヴェアデイロス国立公園とナセンテ・ド・リオ・ベルメーリョ環境保護区での活動を担当してきた。昨年七月に、本部に合流。積極的に、城殿さんの業務に関わっている。
 計画実施に当たって、事前にプロジェクト・デザイン・マトリックス(PDM)が作成され、目標・成果が明示されている。結果を出さなければならないというのだ。
 大学卒業後、民間の乳業会社を経て青年海外協力隊になり、ボツワナで農業指導。その後、米ノースカロライナ州のDUKE大学環境大学院で保全生物学を専攻し、環境管理学修士を取得。〇一年からJICAのジュニア専門員として東京本部に勤務していた。
 「ブラジルの生態コリドー計画は規模が大きいから、やりがいがあります」と意欲をみなぎらせる。
 自然環境データベース、保護区管理など特に鍵になる分野で、技術指導が求められる。プロジェクト終了まで、一年を切った。JICAが去った後、成果が現地に定着するのかが、最大の関心事だろう。今後を占う重要な時期に、福代孝良さん(静岡県出身、29)が短期専門家として、今年四月に派遣された。
 日本ブラジル交流協会のOBだ。一九九六年二十歳のとき、ベレーンのエイダイ・ド・ブラジルで研修。東京農工大学農学部環境・資源学科を卒業後、東大大学院に進学して林政学研究室に入った。そこで修士取得し、現在、同研究室で博士課程にある。二〇〇三年には、リオデジャネイロ連邦農科大学に留学も。
 「ブラジルの森林に興味を持っている。どうして森林がなくなるか、どうしたら良い管理が可能なのか、研究しています」と、熱く語る福代さん。大学院時代からリオやアマゾンで環境や貧困問題に取り組み、日本でNGOの旗揚げにも関わった。
 現場の即戦力として、JICAから声がかかったわけ。昨年五月から十二月まで派遣されており、今回が二度目だ。実は、身重の妻を日本に残しての赴任。プロジェクトが終わるころには、父親になっている。
 仕事でも私生活でも充実感の溢れる福代さん。インタビューは、午後十一時三十分ごろに始まった。取材を終えて部屋に戻った時、時計の針は一時近くを指していた。
(つづく、古杉征己記者)

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