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工芸/美術の境界=超え日本美に深化=リオ市で若林和男展

7月12日(火)

 工芸/美術という境界を乗り越えたところに、「日本美」の現代的造形を求める画家の若林和男さんの展覧会がリオデジャネイロ市で開かれている。一九三一年生まれ、戦後移民画家のトップランナーのひとり。いまなお創作意欲が盛んな若林さんの卓抜した技巧と画風の深化を確認できる。
 神戸で絵の道を歩み始めた頃の、確かな写実力がうかがえる佳作「汽車のある風景」(一九四九)や、六一年に来伯して間もない時代に盛んに描いていたレリーフ風表現を取り入れた作品も並ぶ。ちょっとした回顧展の趣きだ。
 終戦・戦後の風潮が重なってか、暗く重い色調の試行期の作品が一転するのは、日本の工芸と美術の融合を念頭に置いて、江戸時代に端を発する「津軽塗」の技法を用い始めてから。朱、黒、緑、黄などさまざまな色漆を重ね塗り、研ぎ出すと、鮮やかな色の層が浮かび上がってくる。その表現効果を自家薬籠中のものとし、取り入れているのが近作群の特徴だ。
 ごつごつした岩のようなマチエール(絵肌の質感)が画面の大半を占めるものの、優美な幾何模様の鞠(まり)や、花鳥風月の繊細な描写が絶妙に配されているコントラスト(対比)が、鮮やかに迫ってくる。
 かつて「『日本』を作品の中に入れないように抑えていたが、あるとき、ブラジルでの自分は『日本』を抜きに存在できないと思った」と聞いた。「日本にいたらこういう絵は衒いと抵抗があって描けなかったろう」とも。そんな意識の葛藤があったからこそだろう、「日本」的造形の気韻にも一本芯が通っている。
 海岸沿いに建つ二〇年代の大邸宅の瀟洒な部屋や廊下を利用した展示会場には年代物の調度が散見された。そうしたきらびやかな雰囲気の中にあっても、作品は、静かに詩情を保っていた。西欧の古典美にがっぷり四つを組んで譲らない、工芸/美術の境界を超えて深みを増す「日本美」の姿に感心させられた点にも、本展の収穫があった。
 フランメンゴ海岸340のカーザ・デ・アルテ「ジュリエッタ・デ・セルパ」で十七日まで。電話21・2551・1278。

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