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コラム 樹海

 いずれも八十路過ぎの高齢ながらその感受性の新鮮さと深さに驚かされる――このほど出版された『エスペランサ短歌教室生徒作品集』に寄せた水本すみ子さんの序文の一部である▼〇五年同教室に在籍した十七人の歌二十一首ずつが収録されている。長い間、教室を指導した清谷益次講師に「ご覧いただく」、さらに生徒各自の記念のためにまとめられたという。同教室は、二十余年間毎月一回行われてきた。作品集が出た段階で二百四十五回を数えている。まさに「継続は力なり」である▼生徒たちの作品は、「移民の歌」「女性の歌」「妻の歌」「主婦の歌」「おばあさんの歌」だ。一人いくつもの立場にある。筆者との共通項は移民だが、無常観が濃くただよっている作品があり、共感させられる。「ふるさとも異郷となりて散るさくらわが現し身もまぼろしのごと」(尾崎都貴子)、「帰化なさず故国訪うこともなく思うに侘し身の行く末は」(田口愛子)▼それにしても、単に楽しむのでなく、目的をもって集まるサークルなりグループは、存在そのものが確固としている。特に、老いても、身体能力と関係なく実行できる文芸は、互いに学び、切磋琢磨し合うことによって、今はやりの言葉でいうと「結果が出せる」。作品集は「結果」である。教室は今後も続けられていくだろう。さらに次の結果が期待できる▼編集を担当した小野寺郁子さんは、今度の作品集を「質素」と謙遜したが、それは当を得ていない。「充実」である(神)

06/03/10

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