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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2006年7月21日付け

 日本移民百周年の年、日本語センターは日本語学習者たちの訪日研修旅行を行なう計画だ。それ自体は珍しくはないが、見学先の一つに旧神戸移住センターを含めようとしているのは新味である▼ブラジルの日本語学校生徒たちの研修旅行は、これまで名所旧跡や現代日本の先進工業の現場訪問のほか、日本語を使って買い物、歴史を学ぶための原爆ドーム(広島)見学などが日程に組まれている。それに、旧神戸移住センターを加えようとしているわけだ▼「あなたたちの祖父母、曾祖父母が日本を去る際、最後の時を過ごしたところ」と教える。たくさんの祖父母、曾祖父母なかには、同センターを出たきり、不本意にも二度と日本の土を踏むことがかなわなかった人も多い。無念のうちにブラジルの土になったのだ▼孫、曾孫にあたる子どもたちに、その無念さに迫れ、といっても無理である。あまりにも現在の環境が異なるし、曾祖父たちが自分史でも書き、その翻訳を読まなければ、事実関係の把握もできない▼しかし、日本語センターの研修旅行の企画者たちはあえて、最後の時を過ごした、不安におののいていたかもしれない場所的な原点を体験させようとしている。「なぜ(日本人の血を持つ)君たちが、いま、ブラジルに在るのか」―移民百周年という年に、ふだん思いを致さないところを、考えさせるのは意義がある。発想がいい。

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