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記者の目―――――― 非常に重要な首相談話=両国に利益のある計画を

ニッケイ新聞 2006年7月22日付け

 小泉首相がドミニカ移民に対して異例の謝罪談話を発表した。これはブラジル日系社会にとっても非常に重要な決断だった。

 談話には「日系人社会全体の利益」とあり、当然、ブラジルも含まれる。「日系人社会の拠点作りへの支援、移住者保護謝金の拡充を含む高齢者及び困窮者支援、移住者子弟のわが国への招聘等を通じた人材育成等、更なる協力を積み重ねていくこととしております」と言及している。
 現段階で、「日系人社会の拠点作りへの支援」が百周年記念事業箱物と関係するのか分からない。「移住者保護謝金の拡充を含む高齢者及び困窮者支援」という部分が、下本八郎元サンパウロ州議らが主張してきた高齢者謝金や、援協への更なる支援につながるかも不明だ。
 「移住者子弟のわが国への招聘等を通じた人材育成等」の意味するところは、県費留学生の減少を食い止めることなのか、それとも国費留学生を増やすのか。
 いずれにしても首相の談話として、移住者との関係が、このタイミングで語られたことの意義は大きい。
 ドミニカ裁判では移住者側が負け、法律的にはなんら謝罪する必要がない状況で、政治的に判断した。移住者側としても真摯に受け止めなければならない。
 ブラジルにおいては単に過去の賠償をもとめるのでなく、日本と日系社会の未来の関係を豊かにする前向きな方向へ、なにかを始められればと願う。
 日本と日系社会の間にはデカセギ犯罪など多くの問題が横たわっている。対処をまちがえば、両国間の友好にヒビを入れかねない重大な課題もある。
 ただ単に、日本から資金支援を求めるのでなく、両側に恩恵があるようなプロジェクトこそが今、求められている。百周年記念事業のリストをみてもブラジル側というか、ブラジル日系社会側に利益のあるプロジェクトが中心だ。
 二年後に向けて、両国民がともに手を取り合って盛り上がっていけるような計画がほしい。両国の企業や市民が少しずつ協力し、結果として二国間の歴史に新しいページを拓くようなプロジェクトが望ましい。
 日本にとっても意味のある、日本国民が喜んで参加してくれようなプロジェクトを考えようではないか。
 小泉首相の政治判断の背景には、〇四年来伯時の体験と、それに伴う様々な移民との出会いがあったに違いない。あれ以来、首相やその関係者を訪ねたというブラジル移民の声を聞くようになった。一気に心理的な距離が縮まった。当然、その成果は今回の談話にも反映しているだろう。
 過去、様々な総理がいたが、小泉首相ほど移住者に接近した人物はいない。
 どのような想いで日伯議連を脱会したかわからない。しかし、移民に対する想いはかわらないと信じたい。〇八年の式典には、例えその時点での肩書きはどうでも、ぜひ出席してほしいものだ。    (深)

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