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もうひとつの〃ハルとナツ〃=「お姉さんに会いたい」=日本で消えた戸籍の謎

2006年7月29日付け

 自分の戸籍が消えていた?―。今もブラジルに暮らす一世女性の日本での戸籍が消えてしまった、という不思議な話が起きている。
 その女性は、サンパウロ州ミランドポリス・第二アリアンサ移住地に暮らす前田よし子さん(76)。前田さんには移住の際に別れて以来、七十年会っていない姉がいる。ところが日本の戸籍が消えているため、里帰りしたくてもできないというのだ。
 前田さん(旧姓・桐原)は一九三六年ごろ、六歳で家族と渡伯した。移民船に乗る前に神戸で父親が急性肺炎で亡くなったため、母と兄弟との移住だった。その時、三歳上の姉、山口いくえさんが日本に残ったのだという。
 一家はチエテ移住地に入植後、第二アリアンサへ。二人はその後も手紙のやりとりを続けてきた。今では唯一の肉親だ。移住から数十年が過ぎ、姉に会うため里帰りをしようとした時、よし子さんは自分の戸籍が消えていることを知った。
 よし子さんは、鹿児島県薩摩郡宮之城町(合併で「さつま町」に改称)出身。旅券申請のため戸籍を取り寄せようとしたところ、戸籍上ではよし子さんが亡くなったことになっており、消去されていたことが分かった。戦中戦後の混乱の故かもしれない。真相は分かっていない。
 総領事館の返答は「帰国したければ手配はするが、ブラジルには戻れなくなる」というものだった。
 それが十年ほど前のこと。本人がブラジルにいることを証明し、戸籍を復活するためには、日本の家庭裁判所を通した手続きをとらなければいけないという。ブラジルにいながら、必要になる関係書類をどうやって集めるのか。弁護士費用は。日本でも関係者が尽力したが、いまも願いは叶っていない。
 姉のいくえさんは現在、老人ホームに入っている。七十九歳と高齢でもある。いくえさんから手紙が来ると、よし子さんが返事をだす。今も手紙の往復は続いている。一番最近では昨年の十月ごろに出したという。
 入植八十周年を祝った第二アリアンサの会館で、「あきらめていますから」と淡々と話すよし子さん。それでも「会いたいですか」と尋ねると、「会いたい」と話していた。

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