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帰伯逃亡デカセギ問題=「とにかく謝ってほしい」=山岡夫妻、本紙に心中吐露

2006年9月26日付け

 【静岡発】二十一日午後、静岡県西部の湖西市の自宅に山岡宏明・理恵夫妻を訪ね、約六十八万人分の署名が集まった外国人犯罪人引き渡し条約締結と代理処罰制度確立に関する運動の経緯や展望などを聞いた。
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 祭壇には、ソフトクリームが口の周りに残るあどけない笑顔を浮かべた理子ちゃん(当時二歳)の写真が飾られ、彼女が大好きだったキティちゃんのぬいぐるみがたくさん供えられている。
 この十月十七日で、日系ブラジル人のパトリシア・フジモト容疑者が起こした交通事故で理子ちゃんが亡くなってから丸一年──。容疑者は直後に帰伯し、今もどこかに潜伏中だ。
 「パトリシアのお父さんが通夜に来てたけど、本人じゃなきゃダメだと言って追いかえした」。宏明さんは思い返す。
 当時、パトリシア容疑者は自分の子どもや親などと同居しており、直後に家族でブラジルへ帰国した。サンパウロ市ブタンタン区の実家には本紙のほか、複数の日本からの取材陣が訪れたが剣もほろろに追いかえされた。
 「彼女は、いったいどんな思いでブラジルで暮らしているのか」。そんなことを山岡夫妻はよく考える。
 落ち込んでいた夫妻だが、二度とこんな悲しいことが起きるのを許してはいけないと、今年四月から本格的に署名活動に立ち上がった。
 当初、十万人を目標に始めたが、予想をはるかに上回る盛り上がりをみせた。宏明さんは「最初は躊躇(ちゅうちょ)しました。そんなことやって何になるんだろうって」と振り返りつつも、「こんなに集まるとは想像もしてなかった。やっていくうちに支援してくれる人が出てきた。本当にみんなのおかげ」と感謝する。
 署名は静岡県だけでなく近隣県からも寄せられ、異例の記録を残しつつある。この数字は、外国人問題を憂う世論が広く潜在していることを裏付けている。
 安倍新政権が発足した後の十月、新たに集まった分の署名を持って外務省へ届けに行く予定。「今後、高まった気運が冷めないように活動していきたい」と宏明さんは展望を述べた。
 妻の理恵さんに、国際手配されているパトリシア容疑者に対するメッセージを尋ねると、「どんな形でもいいから連絡してください。とにかく謝ってほしい」と語りかける。落ち着いた、しかし、芯のこもった声だ。
 ブラジル静岡県人会の約四千人分の署名以外に、日本国内のフットサル大会で集まった約二百人分、静岡県富士宮市役所外国人相談室から届いた三百四十八人分など、多くのブラジル人による署名も含まれている。「まじめに働き続けている自分たちの評判まで下がると困る」という思いがそこには込められている。
 浜松ブラジル協会(石川エツオ会長)ではこの二十四日に、伯日比較法学会から渡部和夫理事長や二宮正人弁護士らに四人に来日してもらい、日本側法律専門家と代理処罰に関して討論するセミナーを設けた。ブラジル人住民を代表する団体も立ち上がった格好だ。
 昨年末までに八十六人のブラジル人が日本で犯罪などを起こして国外逃亡した。理子ちゃんの件は氷山の一角に過ぎない。
 ブラジル日本移民百周年を迎える〇八年に向け、不登校や非行が騒がれるデカセギ子弟の教育問題などを含め、長期的なビジョンに立った総合的対策が求められている。

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