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「アリアンサの原風景を現在の弓場農場に見る」――移住地研究の渡辺さん調査報告=現金を使わなかった生活=ちょっとした〃小宇宙〃

2006年9月29日付け

 「これまでコロニアでなされてこなかった指摘になると思います」。アリアンサ移住地の歴史をまとめるために来伯していた渡辺伸勝さん(29)は、一カ月間の弓場農場での滞在を終え、「アリアンサの原風景を現在の弓場に見ることができる」と指摘。今回の調査報告を行い、来年も移民史編纂のために来伯することを約した。
 渡辺さんは関西学院大学大学院言語コミュニケーション文化研究科博士後期過程に属している研究者。「日本語がいかに継承されていくか」について調査を進めてきた。〇四年から〇五年にかけて一年間弓場に滞在。今回は八月末からの一カ月間を弓場で過ごした。
 「第一アリアンサ植民地八十周年の際に記念誌編纂の話があがりました。今、第二、第三植民地も一緒に動き始めて、約一年になります。目次もでき、活動は軌道に乗り始めたので、あとは調査を進めることです」
 「以前はアリアンサ全体が弓場のようだった」と話す渡辺さん。日用品は組合を通して購入でき、現金を使うことのない生活があった。「ちょっとした小宇宙ですよね」。アリアンサ移住地の創始者の一人、永田稠の提唱した「コーヒーより人をつくれ」という思想が実現され、物質主義に陥らず、「金儲けよりも優先されることが存在していた」。
 昔ながらの農村「古きよき時代」が変わったのは、インフラが整備され、近代化が始まってから。
 弓場で現在でも見られる「男女の分業」の伝統は、アリアンサにもあったもの。「弓場とアリアンサはもとは一体にされたものだった。今の弓場に、アリアンサの原風景が見れます」。
 バストスなど各地で資料館が主導し、記念誌編纂の活動が行われている。渡辺さんは「他と連携し、同じ調査手引き、質問を使うことで、相互に情報を利用できる共通のデータベースを作りたい」と準備に余念がない。
また「今ならまだ、当時(昔)のアリアンサのことをわかる人もいます。そういう方たちの話を残していきたい」。
 アリアンサ移住地では移民史編纂に向け、渡辺さんをコーディネーターとして取り込もうという話が進んでいる。
 渡辺さんは、一ヵ月間の成果を満足そうにしたため「来年の夏には必ず、早ければ三月ごろにでもまた来ようと考えています」と再来伯の希望を語った。

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