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「不動産と引き換えに先の面倒みて下さい」=独居高齢者から援協に=増えるホーム入居申し出=対処に「頭がいたい」

2006年12月23日付け

 私の財産を寄付します。その代わりに余生の面倒をみてもらえませんか――。そんな訴えが、一人暮らしの日系高齢者などから、援協へ寄せられている。これらは自身が所有する不動産などを寄付する形で、同会傘下の老人ホームへ無料での入居を希望するもので、十年程前から徐々に増加している。今年は三件の申し出があった。
 援協の具志堅茂信事務局長はこうした傾向に「面倒をみてくれるはずの子どもが日本へデカセギに行き、身寄りがいない高齢者が増えている点に加えて、一人暮らしの年寄りを狙った強盗が多発していることが背景にある」と分析する。
 福祉団体の援協にとっては、寄付の申し出はありがたい。しかし、施設の無料入居という引き換え条件での寄付となると、〃頭が痛い相談〃にもなる。
 というのも、実際にこの条件のもとで、寄付者が入居し必要経費がかかりはじめても、寄付された資産が現金化できない限り、つねに赤字を計上し続けるからだ。
 援協傘下の老人ホームでは一人あたりかかる入居費用は一カ月、平均して約千八百レアル。入居者が病気にかかったときなどは、薬代などもかかるため、実際は二千レアル以上の経費がかかることもざらだ。
 この場合、仮に早い段階で寄付された資産が五万レアルで売却できたとしても、年間入居費用を約二万レアルとすれば、その売却利益は二年半ほどで無くなる計算になる。
 つまり財産を寄付し、入居費用の免除を受けた高齢者のホーム入居が長くなればなるほど、同協会が負担する経費が増加していくことにもなるのだ。
 この他にも、援協にとっては、不動産などの寄付は販売までに管理費がかかるほか、所有権の名義変更といった面倒な事務手続きを代行する手間もある。
 例えば、日系姉妹から寄付を受けてサンパウロ市内に所有していた家屋を、去る十月、ブラジル人夫婦に販売した際、援協は運営状況を州から数カ月かけて審査され、必要書類の準備に奔走。同夫婦への地権譲渡にも時間がかかった。
 以上のような問題があるとしても、同会設立の精神は困窮者への扶助にあるため、「いくら赤字になる可能性があるといっても、申し出を無下にすることはできない」。そんなジレンマもつきまとう。
 今年は、サンパウロ市サンジョアキン街近くに住む九十代の男性が、自宅のアパートを寄付する形でホームへの入居を申請したことがあった。また、自宅強盗に何度も遭ったイビウーナ市の一人暮らしの女性がホームへの入居を希望したこともあった。サンパウロ州モジ・ダス・クルーゼス市に住んでいた男性は、九万平米の土地を寄付する形で現に同会の施設に入居しはじめた。
 具志堅事務局長は「こうしたケースは今後ますます増えるでしょう」と予測。そして、戦後移住者が多い現在の四十代から六十代の独身者は「将来の巨大な予備軍」になると指摘する。
 そうだとすれば、十年から二十年後には、同様な訴えが急増することは予測されるし、それに合わせて援協が対応すべき役割も大きくなっていくことは間違いない。
 自助努力の運営を目指す援協としては「寄付は現金でもらえたら嬉しい」という本音は立場上出せないが、高齢化が進む日系社会の現実に対し、設立の精神からみても「できる限りの支援を続けていくこと」は一層求められるだろう。

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