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外国人子弟〝義務教育化〟は是か非か=日伯の専門家に聞く=受け入れ体制整備が前提=「アイデンティティの尊重を」

2007年1月18日付け

 今月十一日付け日本経済新聞オンライン版で「義務教育、外国人の子供にも・政府内で調整」との記事が流れた。日本政府が検討を始めたデカセギ子弟の義務教育化に関して、どう考えたらいいのか。昨年末に訪日して教育現場を視察してきたサンパウロ市在住の心理学者、中川郷子さんや、愛知淑徳大学教員の小島祥美さんに尋ねてみた。
 日本経済新聞の記事は次の通り。「日本に長期滞在している外国人の子供にも義務教育を課す方向で政府内で調整を始めたことが十一日、分かった。子供を学校に通わせることで、外国人家庭が地域に根付くようになり、虐待や犯罪の防止に効果があるとみている。公立学校の受け入れ能力の問題もあり、当面は対象を絞って検討。まとまり次第、学校教育法など関連法改正案を国会に提出する」。
 〇六年四月からは三世への就労ビザ審査が厳重化、五月には河野太郎法務副大臣が「日系人の受け入れは失敗だった」と公言、ブラジルとの犯罪人引渡し条約締結と代理処罰への署名が七十万人を超えるなど、昨年はデカセギへの風当たりが一気に強まった。
 その流れかどうかは分からない。しかし、公立学校にもブラジル人学校にも通わないデカセギ子弟が非行にはしりやすく、犯罪者予備軍になるのでは、との地域住民による強い不安感が、義務教育化の根底にはあると推測される。

「ポ語禁止」の学校?!

 中川さんは昨年、十一月二十日から十二月六日まで訪日し、東京で行われた多文化共生シンポジウムで講演したほか、愛知県の公立学校を視察して教育現場の状況を目の当たりにした。
 「驚きました。学校の中で、ポ語をしゃべっちゃいけないと禁止しているところがあるんです」。外国人児童の割合が三、四割だという愛知県のある公立小学校でのことだ。
 「愛知県では、同じような割合で外国人の子供が集まっている学校があちこちにある」。先生が外国語を学校内で禁止すると、母語しかできない近来の子供たちは困ってしまう。
 中川さんは「一日しゃべれないんだ」と悲しそうに訴える日系児童がいたと振り返る。「ものすごくストレスを感じているようです」。外国人子弟同士でこっそり使うと「先生がダメだと言ってるのにしゃべってる」といじめの原因にもなっているようだ。
 義務教育化に、中川さんは基本的に賛成だ。「ただし、受け入れ体制を整えないと不就学は減らないと思う」と予測する。なぜなら、多くのデカセギ子弟にとって公立校は、一度は入学した経験があるからだ。
 なぜ適応できずに辞めてしまうのか、その対策が肝要だ。その後、ブラジル人学校に入り直し、そこにも馴染めずに、最終的に不就学になる筋道を辿っているケースが多いと指摘する。
 ブラジルで性格形成をしてから親に連れられて訪日した子に、ただ単に義務教育として強制し、「日本人と同じようになれ」といっても難しい。「やっぱり自分の持っている文化やアイデンティティを尊重してほしい」と問題提起する。
 〇五年九月にサンパウロ市で行われた伯日比較教育シンポジウムでも発表した、外国人子弟の教育問題に詳しい小島祥美さん(愛知淑徳大学教員)は、本紙の取材に対し「義務教育化した場合、外国人学校(民族学校)が選択できるようにすること、同時に日本の学校(一条校)においては、外国人の子どもたちのアイデンティティを保障し、日本に暮らすすべての子どもを対象とした多民族多文化共生を理念とする教育を行うことが最低条件です」との考えを表明した。
 日系子弟の教育問題は、日伯関係の将来を考える上で、大変重要な要素をはらんでおり、今後の進展に注目が集まりそうだ。

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