ホーム | 日系社会ニュース | 35年前の出版約束果たす=共栄日本語学校=『風の中の子供たち』〃生徒たちの移民史〃――教師の城田志津子さん自費で=約束の動機=親を労わる子たちに感動

35年前の出版約束果たす=共栄日本語学校=『風の中の子供たち』〃生徒たちの移民史〃――教師の城田志津子さん自費で=約束の動機=親を労わる子たちに感動

2007年2月20日付け

 「三十五年前の生徒たちとの約束を果たすため」――。城田志津子さん(北海道出身、70)がこのほど、日系移住地に育った子供たちの記録「風の中の子供たち」~南マ州ドウラードス市共栄日本語学校~(トッパン・プレス社)を自費出版した。城田さんが日本語教師を始めたころ、生徒たちの実情にふれ感動、「いつかみんなの作文を本に…、私に話してくれたみんなの話を書いて残そう」と約束していた。


 十五日、出版社から発行されたばかりの本を抱え、編集に協力した竹村雅義さん(JICAシニアボランティア、南マ州文化協会で指導)と、トッパン・プレス社の奥山クラーラ氏が出版の報告に来社した。
 竹村さんによると、城田さんは、共栄日本語学校創立当時の七一年から教師を務め、今日まで百四十五人の生徒たちを送り出してきた人物。
 同書の出版を考えたのは、城田さんがまだ、同日本語学校で働き始めた頃だった。
 ある日、「今、みなさんが誰かにお金を貰ったら、どんなことに使いたいですか」と城田さんが生徒たちに尋ねたところ、「お父さんお母さんを楽にしてあげたい」「(両親を)日本にいる祖父母に会わせてあげたい」「両親を日本に行かせて、親孝行がしたい」との返答の数々が返ってきた。
 遊び盛りの子供の、親に対する労わり深さを目にした城田さんはひどく感動し、その場で、「みんなの作文をまとめていつか本にできたら…。今先生に話してくれた素晴らしい話を沢山書いて残しましょう」と話したという。
 それから三十五年経った今、日本から移住してきた家族の姿と、共栄移住地の生活の記録として、生徒たちの詩や作文をまとめた同書がついに完成した。
 「本にしたいといった私の話を、子供たちはただ漠然と聞いていたかも知れない。当時の生徒たちは文を書くのがやっとで、あの約束は、それを励ます意味で言ったある意味〃夢〃だった」と受話器越しで城田さんは話す。「やっと約束を果たすことができました。待ちわびていた生徒たちは、私がした約束をもう忘れてしまっているかもしれないけれど…」。
 出版が現実化した話を耳にした生徒の一人が、「これは私達の手でいつかポルトガル語にしますから」と伯語での出版を約束してくれた話を嬉しそうに語る城田さん。
 あの約束から三十五年後、当時の生徒たちは五十歳近くになった。
 出版を楽しみにしていた人の中には、「本ができて、漢字が読めないかもしれない」という心配を抱えていた生徒もいたという。城田さんは、そんな生徒たちのために、ふりがなもふった。
 十八日、同日本人学校会館で行われた五十三周年共栄移住地の入植祭で、城田さんの手から同書が配られた。当日は、同校に籍を置いた生徒たち、家族、親戚、約二百人が集まり、生徒たちは涙ぐみながら本を受け取った。
 同書について城田さんは、「単なる作文集ではなく、共栄移住地という日系社会の中で子供たちが歩んできた生活の記録と、どんな経済不況にも挫けず、日本語教育を続けてきた日本人会の歴史でもあると思う」と説明。
 編集協力者の竹村さんは、「子供たちの目から見た移民史ではないだろうか。非売品だが、いろんな人に読んでもらいたい」と推奨していた。

image_print