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指定病院設置を国に要望=広島医師団と被爆者協会=治療現地化に向け意見交換=「伯の医療レベルは十分」

ニッケイ新聞 2007年10月16日付け

 治療の現地化を――。広島県が派遣した医師ら七人(碓井静照団長=広島県医師会会長=)が、ブラジルの医療関係者を対象にした被爆者医療研修を行うために来伯。十二日、在ブラジル原爆被爆者協会(森田隆会長)会員らと意見交換を協会事務所で行った。同協会ではこれまで「治療を伴わない診察ならば受け入れたくない」と訪日せずとも治療を受けられる体制作りを模索、日本政府に訴えてきており、今回初めて、ブラジルの医師らを対象にした被爆者医療の研修にこぎつけた。意見交換には四十人強が出席し、「毎年現地で健診を受けられるような指定病院の設置」実現を国に要望していくということで話がまとまった。
 広島県医師団は、碓井団長はじめ、土肥博雄・広島赤十字・原爆病院院長(放射線被爆者医療国際協力推進協議会会長、副団長)、伊藤勝陽・広島大学大学院歯薬学総合研究科教授(同推進協議会幹事)、松村誠・広島県医師会常任理事の四人の医師と、野村邦明・広島県保健医療局長ら、行政関係者三人の、計七人。
 一行は九日に来伯し、日伯友好病院、サンタクルス病院、癌病院で、計二百五十人弱の医師を対象に講演を行った。十五日にはクリチーバでも研修を実施している。
 集まりの冒頭、碓井団長は「被爆した人はどこに行っても被爆者。これまで政府に働きかけていって、改善されたこともある」とあいさつ。その後、松村常任理事が健康維持についての講演を行った。
 続いて、野村保健医療局長、八幡毅・広島県福祉保健部被爆者・毒ガス障害者対策室主任主査が前に立ち、「皆の意見を聞いて、来年以降のあり方を考えていきたい」と意見交換を始めた。
 野村局長は、八五年より隔年で被爆者健診を開始している、とこれまでの経緯を説明。〇五年二月からは民間の医療保険費用を負担する保健医療助成支援を、同年十一月からは在外公館を通じた各種手当てなどの申請の取り扱いを始め、今年四月には民間の医療保険に加入していない人が医療費助成を受けられる制度を整えた、と行政上の改善点を話した。
 それに対し、協会会員らは「ブラジルは民間保険に入っていても、高額の医療費がかかる」と、助成事業制度の見直しを要請し、また、健診事業に対しては「診断をしてくれるのはいいが、実際に病気が見つかっても、高齢化もあり、訪日することは現実的でない。健診のために医師らが来伯する費用を、治療の現地化に充ててほしい」と訴えた。
 多くの被爆者は、日々の健康不安を抱えて生活している。盆子原国彦さんは「非常の時にも見てもらえるような制度の構築を」。伊藤薫さん(70)は「定期的な健診をしに、指定病院に行く形が好ましい」。山下広行さん(64)は「日本語で通じる病院の指定を」と共通する胸のうちを話した。
 野村局長は「日本の被爆者も保険費用を払うことで医療費を負担している」ことを何度も説明した上で「皆様の意見は、帰って国の担当者に伝えます」と、力強く応えていた。
 碓井団長は、病院での研修の印象を「医師会も協力的で、被爆者医療について、病院スタッフからも十分に理解を得られた」とし、外局、検査設備など病院内を視察して、「被爆者健診をする医療レベルは十分にある」と現状を話した。
 来年の在南米被爆者健康診断は、ただちに指定病院の設置ができるわけではないため、ブラジルでも受け入れることが決められた。

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