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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2008年2月13日付け

 ブラジル進出後五十周年を経た日本の企業はそんなに多くはない。トヨタ・ド・ブラジルは、その数少ない一つである。日本を代表するこの企業は、すでにブラジルをも代表する企業である。最近流されているテレビのCMも「五十年」を前面に出し、ブラジルと一体であることを強調しているかのようだ。車の性能がこのようにいいのだ、とあえて宣伝しない。それは、みんなが知っていると言わんばかりだ▼六五年だったか、サンベルナルドの工場に、あの(日米戦争の)「捕虜第一号」として知名だった酒巻和男氏が新社長として着任したのを知って、取材に行ったことがある。真珠湾のあと「乗用車はいつ現地生産するのか」の話題になった▼トヨタ本社の課題だったのは確かなので、その後社長が替わるたびに、同じ質問が出た。当時生産していたランドクルーザーは、使用者の間で間違いなく評判がよかった。だが、それがトヨタ(の本命)ではないと、少し関心のある人なら誰でも知っていた。酒巻氏も以降の社長も全員「検討中」の意味のことを述べた▼ブラジル政府との折衝や、市場調査がどうだったのか、部外者が考えてもわからないが、踏み切るには難があったのだろう。「検討中」の期間は、五十年の歴史の中でおよそ七〇%程に相当する長い間だった▼その後完成車の輸入を経て生産へ。すぐに実力が発揮された。将来も同社は時代の要求に沿った乗用車生産において、常にトップランナー的な存在であり続けるだろう。(神)

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