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日本政府がようやく本腰=世界に向け文化・言語の発信=教育拠点3年で100カ所に=海外交流審議会の答申受け

ニッケイ新聞 2008年3月29日付け

 世界における日本語教育に、ようやく政府が本腰を入れ始めた。今年二月に発表された日本の海外交流審議会(外務大臣の諮問機関)の答申(二十頁)には、「主要国は積極的に海外における自国語普及を図り、文化交流事業を展開しており、また、自国の魅力を発信するための予算を増加させるなどの取り組みを強化している」との現状認識をしめし、現在十カ所しかない国際交流基金の海外日本語教育拠点を、三年以内に百カ所にするという。ブラジル国内も強化対象になり、日系社会が以前から要望していた日本語・日本文化普及への注力が、ようやく実現されそうだ。
 この答申は「日本の理解者とファンを増やすための、日本文化の発信力強化を提言する」もので、二年にわたる有識者十七人の議論がまとめられた。
 「英国のブリティッシュ・カウンシルの二〇〇六年度予算は前年度比5・4%増、ドイツのゲーテ・インスティチュート(以下、ゲーテ)の〇七年予算は前年比24%増である。他方、我が国の取り組みは控え目すぎ、予算も逓減傾向にある」と警告する。
 日本語教育に関する部分では「外務省をはじめ政府・関係機関が連携・協力して、海外及び国内における日本語教育を一層積極的に推進していくことは喫緊(きっきん=急を要すること)の課題である」と強調している。
 答申には「現在十カ所にすぎない国際交流基金の海外日本語教育拠点数を二~三年以内に主要国並みの百カ所以上にする」とある。
 国際交流基金サンパウロ日本文化センター(西田和正所長)によれば、「東京の本部の方で、三年間で百カ所増やす方向で実施に向けた検討に入っている」という。昨年中に予算申請もされており、この四月からの〇八年度から毎年三十拠点ずつ増やし、一〇年には百カ所にする計画だという。
 同日本文化センターは十拠点に入っておらず、現状の日本語支援プログラムを強化する形で拠点化する。西田所長は「ブラジルでの日本語予算も増やしていきたい」と意気込む。
 この報に接したブラジル日本語センターの谷広海理事長は、「ようやく日本側も日本語普及の大事さを分かってくれた」と喜んだ。

【解説】中国・孔子学院は5百カ所=望まれる日系社会への注力

 一方、サンパウロ人文科学研究所の宮尾進顧問は「いまごろ目覚めたか」というもどかしさ混じりの感想をもらした。
 宮尾顧問は、日本政府による積極的な文化普及の必要性を十年以上前から繰り返し主張してきた。ここ数年間も日伯学園構想という形で幾度も提言し、それを受けてコロニア全体で議論が行われてきた。
 前述のゲーテは、世界八十三カ国に百四十七カ所も設置されている。ちなみにブラジルだけでサルバドール、ブラジリア、クリチーバ、サンパウロ、リオ、ポルト・アレグレと六カ所もある。アルゼンチンに四カ所、チリに二カ所など南米各国に拠点がある。
 フランス外務省が支援するアリアンサ・フランセーザに至っては、百三十八カ国(同サイト)に仏語教育の拠点を持つ。サンパウロ市内だけで八カ所もある。
 日本が目標とする百カ所で「主要国並み」というのは、実に怪しい数字だ。
 昨年十一月十七日付け読売新聞社説に「中国政府は、外国人に対する中国語教育の拠点として『孔子学院』を世界五百カ所に設立する計画で、中国語の海外普及に積極的に乗り出している」とあった。
 西田所長も「別に対抗する訳じゃない。ただ参考にはしている」という。
 この流れの中で膨大な資金を背景に、ブラジル内の公立大学に対して、中国政府筋は中国語コースや中国文化学科設置を積極的に売り込んでいる。複数の大学の日系教員からは「本国の支援が少ない日本語コースの廃止を検討する大学もあった」と強い危機感を訴える声も聞こえてくる。
 日本側が自発的に百カ所設置を提言したのでなく、中国政府が積極策を打ち出し、米国内で日本語学習者が減って中国語への関心が高まる傾向が顕著になったことで、ようやく危機感を持ったとも推測される。
 この答申では日本国内のデカセギについて言及しているが、残念なことに、在外日系社会のことは一行もない。
 ブラジルでは、日系三世までの継承日本語はJICAが管轄し、非日系ブラジル人向けの公教育や大学教育などは基金が担当するという特殊事情がある。移住者支援予算から日本語教育をするJICAは年々予算を減らし、ジリ貧状態だ。
 谷理事長は「実際の教育現場においては日系、非日系両方いる。ブラジルの特性を活かして、日系社会を軸にして日本語教育を広げる形で支援してもらえないか」と提言する。
 人文研の鈴木正威理事も「総体として歓迎すべき傾向」としつつも、「現地の事情に即した、きめの細かい施策が必要ではないか。日本語センターや日伯教育機構を通した後押しを強めたらどうか」という。
 宮尾顧問は「お役所的な垣根はとっぱらい、総合的な日本語政策が必要な時代になった」とこの流れを位置づけ、「アルモニア学園の生徒の八割は非日系。幾つもある日系校の日本語教育を後押しするのも手段の一つだろう」という。
 日系コレジオ七校により昨年創立された日伯教育機構を強化することで特徴を持った日本語教育の核になりえるのでは、と薦めた。

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