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心臓外科の〃神の左手〃=渡邊教授が公開手術=友好病院で「オフポンプ式」=モニター生中継見入った医師ら

ニッケイ新聞 2008年6月28日付け

 日本のメディアで〃神の左手〃とも称され、著名な心臓血管外科医として知られる渡邊剛医師(49、金沢大学医学部心肺総合外科教授・東京医科大学心臓外科教授)が去る十六日午前、日伯友好病院で、人工心肺装置をつかわない、オフポンプ心臓冠動脈バイパス手術をおこなった。手術の模様は、モニターを通して生中継され、日伯友好病院の医師や看護婦ら約四十人が見守った。同医師によれば、日本人医師が南米で公開手術するのは初めて。
 手術を受けたのは、肥満型の五十代の非日系ブラジル人女性。大小含めて七つの血管が脂肪で詰まり、そのままにしておけば、心筋梗塞や狭心症を引き起こしかねない重度の症状を抱えていた。
 渡邊医師は、ブラジル人医師やともに来伯した日本人医師を助手に手際よく切開、バイパス用に切り取った太ももの静脈と腕の動脈を患部に素早く縫合した。
 オフポンプ手術は、術後に脳梗塞や肺炎などの合併症を招きにくく、出血が少なく、心肺機能の回復が早いなどの利点がある。身体への負担が少なく、五日から一週間もあれば退院できるという。
 同手術法は、一九九二年に欧米で始められ、九三年から渡邊医師が日本で広めてきた。手術の平均時間は二時間から五時間ほど。日本で年間二万件ほどある心臓血管外科手術のうち、七五%がこの手術法が採用されているという。
 一方、アメリカでは、心臓血管手術全体の一二%弱、ヨーロッパでは五%ほどしか採用されていないと渡邊医師。「医療訴訟が多く、難易度の高いこうした手術をさける傾向が背景にあるようです」。
 こうした傾向はブラジルでも同じで、ブラジル国内屈指の心臓外科治療を誇るインコール(サンパウロ大学付属心臓外科病院)でさえも、同手術法は心臓血管外科全体の二〇%ほどに留まっているという。日伯友好病院では、まだ実施したことはない。
 友好病院では、〇六年に富山医科大学の山本恵一名誉教授の仲介により、金沢大学との技術交流で提携し、心臓外科分野を病院の目玉にしようと計画している。
 渡邊医師は「技術的、人的交流の種を植えるためブラジルに来た。日伯友好病院がオフポンプ手術の技術を広める医療機関になり、日系社会はじめ南米全体の福祉医療の向上に役立ててもらえればうれしい」と大きな期待を寄せた。
 同医師は十四日に来伯、同病院での公開手術ほか、アニェンビー国際会議場であった日伯交流シンポジウムで講演などし、十七日、帰国した。

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