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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2008年8月21日付け

 日本国内でも大いに議論されているが、コロニアでもよく聞くのが現代の日本語に対する違和感である。「けしからん」と怒ったり、ため息をついたりと忙しい▼例えば、レストランなどでよく使われる「~になります」「ご注文の方(ほう)~」といった言い方である。「~です」「ご注文」でいいではないかー、というのが大方の意見だ▼先日来伯、ブラジル日本語センターで講演を行なった言語学者の金田一秀穂氏によればこうだ。「~です」ではぶっきらぼう、「~でございます」では慇懃過ぎる。丁寧に言うときに「こちらの方」と人を紹介するように、方向を示す言葉を使うのは誤用ではないと説明する。これらの用法は、細分化された言葉で人との距離感を図る日本の伝統を踏襲していると説明、「三十年後には定着するだろう」とも▼「言葉は時代とともに変化する」との持論は、氏の父親で方言研究の権威だった春彦氏もそうだったようだ。同氏が認めていた「ら抜き言葉」は、今では新聞記事にも使われるほど一般的となっている▼「だからといって、全てを認めて良いわけではない」と続ける。アクセルを踏む若者と、ブレーキをかける保守的な大人との拮抗が言葉の進化過程の健全な姿との結論には、うるさ型(?)の日本語教師らも大きく頷いていた▼「母国で変な日本語を使われては、ブラジルに影響するので困る」と発言していた参加者がいたが、進化が止まったようにも見えるブラジルの日本語もまた、日本から来た人の関心事になるのだから、言葉とは面白いものだ。  (剛)

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