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激変するデカセギ事情=大挙帰伯の真相に迫る=連載《7・終》=各地で求められる支援=パラナ州起業相談30%増

ニッケイ新聞 2009年2月20日付け

 デカセギ大挙帰伯が今後も続くと予想される中、ブラジル側の受け入れ支援体制作りが早急に求められている。
 愛知県、三重県、群馬県、岐阜県の県庁職員、サンパウロ市、南麻州の識者や関係者が声をかけあい、一月三十一日にインターネットを通したテレビ会議が開かれた。
 サンパウロ市からはデカセギ子弟の教育支援を行っているISEC(文化教育連帯学会=吉岡黎明会長)の九人が参加。日本語とポルトガル語を交えながら、互いに現場の状況を報告した。
 「三カ月でブラジル人の県内外国人登録数が三百九十二人減。未登録者も多く、何倍もの人が帰国しているのでは」(岐阜)。「予想失業者数は愛知県の二万人が全国最多。うちブラジル人がほとんどだろう」(愛知)。「日本語のできる外国人向け就職説明会に千人以上殺到」(群馬)などと日本から緊迫した状況が報告された。
 日本側が特に知りたいのは「ブラジルでどこがどんな支援をしているのか」。役所に相談にくるデカセギが心配するのは帰国後の「職と教育」だ。その相談窓口を求めている。
 ところが、サンパウロ市側は「どんな状態で何人、どこに帰伯するのかが読めない」(吉岡会長)というのみ。同会議は、技術的問題があり単なる報告に留まったが、結果的に日伯連携した支援体制の必要性は大きく浮かび上がった。
 ISECは、激増が予想される子弟の教育体制を整えることを優先課題とする。「どんなことが起きているのか実態を把握し、教育だけじゃなく心のケア、家族の指導もしていく必要がある」と中心メンバーの中川郷子さんは話す。
 昨年、サンパウロ州教育局の協力のもと市内州立校四十校を訪問し、四十人の子弟らの現状を調べた。しかし市内公立校の八割は市立であるため、今月はじめに中川さんとサンパウロ州教育局の日野寛幸さんが市役所を訪問し、州と市が一体となった活動をしたいと申し入れた。
 バイリンガル教師を公立校に派遣するなどの具体的な支援の模索は始まったばかり。実際の対応は後手に回り、対処療法になりそうだ。
 帰伯した親の直面する現実も厳しい。グループ・ニッケイ(島袋レダ代表)の帰伯者向け就職相談会で就職先を見つけるのは二割程度だ。
 未曾有の大不況にも関わらず、訪日希望者は絶えない。サンパウロ州バウルー市の地元紙は九日、「派遣会社に日系人二百人がデカセギ待ち」と報じた。大半が日本の再入国許可を持つ。一端帰伯したリピーター組が列をなしている。
 その一方で、明るいニュースも流れている。小・ミクロ企業支援サービス機関(SEBRAE)が実施する帰伯者向け起業家支援プロジェクトの一月の相談者が、パラナ州全体で三〇%も増加したのだ。ここに根を張ろうとの試みだと解釈できる。
 危機以前に資金を貯めていた計画性のある人には、今は〃好機〃かもしれない。もちろん、起業しても数年後まで持ちこたえる人が何%いるか分からない。だが、全伯で起業家が増えれば、日系社会全体も活性化する可能性がある。
 また、デカセギ資金目当ての詐欺や強盗などの犯罪が増加すると指摘する声もある。
 良くも悪くも、今回の大量帰伯がいろいろな意味で日系社会に影響を与えることは間違いない。可能な限り、帰伯者がすんなりと再適応できるよう、支援の手を差し伸べることは各地の日系団体の責務ではないだろうか。(おわり、渡邉親枝記者)

写真=日伯6カ所が参加したインターネット会議の様子(1月31日、サンパウロ市)

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