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ぴんころはみんなの願い=日本の高齢者は今=連載《5》=認知症を支える

ニッケイ新聞 2009年3月5日付け

 東北大学での講義の前日、私たちJICA介護サービス研修員は宮城県大崎市にある田尻スキップセンターを視察。そこは伊達政宗や青葉城恋歌で有名な仙台市から北へ向かって車で一時間ほど、稲作を中心とした農村地帯にあります。
 市町村合併前の田尻町で始められた田尻プロジェクトは、現在、地域包括支援センター、診療所、デイサービス、在宅介護支援センター、特養ホームなどが複合した田尻スキップセンターを中心に、地域にある医療、保険、福祉の連携事業として実現しています。
 その特徴は地域の保健、医療、福祉の連携で、決してセンターだけでの事業ではないということです。地元開業医や民生委員が認知症の早期発見に大きな役割を果たしています。
 田尻スキップセンター内の診療所、各施設は独立運営されていますが、同じ建物内で、すべて廊下でつながっているため大変便利です。訪問したその日は、初雪が舞う銀世界。ブラジルから訪問した私たちは雪に大喜びでしたが、積雪地帯では長い冬の幕開け。天候の悪い中、利用者がわざわざ離れた診療所や施設に行かず済むよう設計されています。一カ所ですべて用が足りるというのは、デイサービスや特養ホームで急患が出た時でもすぐ対処できる大きな利点もあります。また近隣のデイサービスや認知症グループホームからの患者さんも受け付けています。
 ここで、利用の具体例をあげてみます。
 「かかりつけのお医者さんからの勧めもあり、父の様子がおかしいので田尻スキップセンターに連れて行きました。ここには物忘れ外来があり、認知症専門医の診察を受けました。その時、私たち家族からの聞き取りや本人へのテストなどで、CDR(臨床的認知症尺度)が認知症疑いと診断されました。その後MRIなどの医学検査でアルツハイマー病とわかり、進行を遅らせ、問題行動を抑えるために薬も処方されました。父が認知症とわかってから、家族みんなで協力し、世話をするようになってから、落ち着いて家庭生活もできるようになってきました」
 「その後、認知症が進行したので、普段の面倒を見てもらうために、同じセンター内地域包括支援センターの受付に行きました。そこではケアマネージャーさんが相談にのってくれ、要介護の認定や、在宅介護サービス、デイサービスの利用について説明してくれました。家族の急用などで、同じ建物にある特養ホームを短期利用した場合や、今利用しているグループホームに入る時も世話してくれました。認知症は進んでいるようですが、本人はとてもなごやかにしています」
 最近では、認知症のグループホームが日本各地に出来ています。グループホームとは、地域ごとに九人ほどの少人数で家庭と同じようにお世話をする小さい施設です。
 同日、スキップセンターから車で二十分、同じ地区にあるグループホームを案内してくれた介護福祉士さんは、「これからゆくグループホームには、私のおばあちゃんもお世話になっているんですよ」と嬉しそうに案内してくれました。
 中はすべて個室で、ちょっと大きな家といった雰囲気。訪問した時は利用者の人と一緒になってクリスマスの飾り付けをしている最中でした。ここには介護度の高い人はいませんが、落ち着いた雰囲気で、一見認知症とわかりません。
 しかし、この利用者の方々は家庭での生活が困難な方ばかりです。ここでは、家族の訪問は頻繁にあると聞きました。家で生活することが出来ない認知症高齢者にとって、地元にあるグループホームが理想的な第二の住家と言えるかもしれません。(つづく、川守田一省・援協広報渉外室長)

写真=グループホームの一軒家の個室。一見、普通の住宅となんら変わりはない。高齢者が落ち着いて生活出来るように配慮されている




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