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■記者の眼■どっちが「妥当性欠く」?=日本国大使館から抗議文

ニッケイ新聞 2009年4月7日付け

 面白い文書が、在ブラジル日本国大使館からニッケイ新聞宛てにメールで届いた。
 その文書は三日付けで「在日日系人に対する支援策の実施について」との題がつけられ、帰伯費用として三十万円の支援を受けた日系人は時限的に「日系人」としてのビザでは戻れないことを批判する弊紙や伯字紙の報道を「妥当性に欠くもの」と断定している。
 本当にそうだろうか。
 同文書は次の通りに主張する。「ブラジル国内の一部マスコミ等で、支援金を受給した者が日本への再入国を制限されるとして、差別的措置であるとする否定的報道がなされているが、同措置は、我が国で、現下の特別な社会・経済情勢の下、派遣・請負等の不安定な雇用形態に置かれ、非常に大きな経済的困難に直面する者で、かつ日系人のみを対象として特別に実施する追加的・金銭的支援策であり、同差別的取扱といった内容は明らかに妥当性を欠くものといえる」。
 だいたい九〇年に施行された入管法自体が、日系人向けに特別定住ビザを許可し、そこからデカセギ・ブームが始まっている。元々が日系人向けの日本の施策から始まったものである以上、「日系人のみを対象として特別に実施する追加的・金銭的支援策であり」と今さら日系人向けであることを〃特別ぶる〃のはいかがなものか。
 この入管法改正時に、日系人受け入れ態勢に関する慎重な審議が足りなかったから、この二十年間もほったらかされてきた経緯がある。
 金融危機に始まる大量解雇によって、ようやく本格的な日系人支援策をとり始めたからといって、「我々はしっかりとやっている」と突然アピールを始め、今までほったらかしてきたことに関しては頬かむりするかのようだ。
 同文書は続く。「今次、再入国制限については、帰国支援金を受給して帰国した方々は、我が国において非常に大きな経済的困難に直面していたと考えられるところ、我が国の今後の経済・雇用情勢等につき確たる見通しが立たない中で、当面の間、従前の条件で再度入国すれば、再び大変な経済的困難に陥るおそれが大きい」
 つまり、日本は不況だから仕事がない日系人はさっさとブラジルに帰ってもらおう、しばらく不況が続くから当面は戻ってこられたら困る、ということらしい。
 それを、あたかもデカセギのことを親身になって「再び大変な経済的な困難に陥るおそれが大きい」と心配してみせつつ、再入国を制限すべきだと理由付ける。
 本当に「再び大変経済的困難に陥るおそれ」があると判断すれば、実際には誰も日本には行かない。つまり、日系人にはそのような頭しかないからから、わざわざ法令で禁止しないと戻ってくるに違いない、と考えているかのようだ。
 なぜ合法滞在であるはずの日系人に対し、支援と裏腹に再入国制限をするのか。「差別的」といわれる部分への根本的な説明になっていない。
 大使館文書は「再入国制限取扱のみを抽出した形で否定的報道がなされることは不適切である」と指摘しているが、弊紙ほど日系人支援策の全体像を報道したメディアは他にないことを自負しており、大使館の指摘にはまったく該当しない。
 弊紙読者に問いたい。どちらが「妥当性に欠くもの」か。(深)

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