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次の百年戦略のために=~日系社会とは何か~=第1部《世界史の視点から》(10)=言葉と文明の関係=欧州移民との違い

ニッケイ新聞 2009年6月10日付け

 文明が違う――ということは何を意味するのか。
 日本移民がブラジルで直面した西洋文明の壁として、最も大きく立ちはだかったものの一つがポ語ではないか。まず、次の文章を読んで見て欲しい。

O que mais consulto é o Dicionário Houaiss da língua portuguesa, un coloso magnífico de case 3.000 páxinas que ofrece arredor de 200.000 entradas.

 まるでポ語と一緒にみえるが、これはれっきとしたスペインの新聞「エル・パイース」の記事だ。ただし、ポルトガルに隣接したガシリア地方版なのでポ語により近い。それにしても、スペイン語とポ語は別の言語と認識されているが、どうしてこんなに似ているのか。
 例えば、日本語との違いを端的に表す言葉としては「農業」と「文化」が挙げられる。日本語においてはまったく別の言葉だが、ポ語の「クルトゥーラ」という言葉は、文化や文明を示すと同時に栽培、耕作をも意味する。農業全般を示す「アグリクルトゥーラ」もこれが語源だ。
 スペイン語でもクルトゥーラだし、英語でもカルチャーと似ており、やはり両義を持つ。なぜかといえば、同じインド・ヨーロッパ語族(印欧語族)だからだ。
 ポ語は印欧語族のイタリック語派の一つで、仲間にはラテン語、フランス語、スペイン語がある。英語やドイツ語はゲルマン語派に属するが、やはり同じ語族だ。
 なぜこのようなことが起きるのかと言えば、地理的に隣接しているので、歴史的に何度も交錯しているからだ。
 〇八年三月三〇日付けガゼッタ・ピラシカーバ紙記事によれば、ポルトガル政府外郭団体のインスティトゥート・カモンイスは、自ら主催したポ語歴史展で「紀元前二二〇年に、ローマ帝国の兵士がこの地に侵略したことから、ポ語は生じた」と説明した。
 「ローマ人たちは兵士に加え、たくさんの軍事関連の商人、詩人、官僚も移り住ませ、生活習慣や言語を持ち込んだ。そこで長い年月をかけて地方独特の表現が発展してポ語やスペイン語が誕生した」とある。
 ポルトガルのコインブラ大学で伝統研究をするマリア・ヘレナ・ダ・ロッシャ・ペレイラ教授も、「欧州文化の起源はギリシアとローマにある」(〇八年四月四日付けエスセシア通信)と明言する。
 つまり、欧州においてポ語は言語的には方言であり、ポルトガル文化は地方派生文化のようだ。
 欧米人が西洋文明圏の外国語を学習するのが、日本人よりはるかに易しいのは、このように基底文化が同じだからだ。
 とくに指摘されるのは、学術語などの難しい単語になるほど、ラテン語を起源とする言葉が多くなるため、単語のつづりが似てくる傾向が上げられる。そのため、欧州言語の母語話者であれば中級、上級レベルになるほど学習者には有利になる。
 一方、日本語が属する「日本語族」はほかに下位言語がなく、孤立言語とされる。さらに江戸時代の約二六〇年の鎖国が文化としての独自性を高めた反面、それ以外の文化との壁を高くしたことは言うまでもない。
 逆にいえば、日本は狭い国土の中にたくさんの方言を育てたことで、大陸に匹敵するぐらいの言語・文化的な多様性を持っていたともいえる。
 極端な話、もし、日本が幕末に幾つもの国にも分かれていたら、欧州諸国と同じぐらいの言語・文化的な差異を持った国家群になっていたかもしれない。
 欧州諸国は、十九世紀からどんどん国家が分裂し、それぞれがナショナリズムを高揚して「国民」意識を形成し、公用語としての国語を制定、他国との違いを強調する流れの中で、現在のような一国文化としての地位を得てきた。
 文明の違いを超え、まったく一から学ばねばならなかった日本移民の苦労は並大抵ではなかった。日本移民が最初にぶちあたった困難である言語一つとっても、それだけ敷居の高さに違いがあった。(つづく、深沢正雪記者)



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