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スローフード体験記=マンジャーレな一日=連載《下》=森林浴でキノコ三昧=米村さん「椎茸広める機会になった」

ニッケイ新聞 2009年7月2日付け

 米村さん所有の林。曇天のひんやりした空気が心地よい。一直線に並んだテーブルと椅子。その両側に点在する井桁に積まれたほだ木がアート的な世界を生み出す野外レストランだ。
 特設された調理場で手際よく仕上げを行なうシェフたち。参加者らは関心深そうに見遣りながら、それぞれ席についていく。
 テーブルクロスの上に並ぶフォーク、スプーン、ワイングラスはプラスチックではなく、レストランで使用するもの。
 アコーディオンとギターが奏でるカンツォーネやイタリアン・ポップスが響くなか、森の香り―フィトンチッド―をたっぷりと吸い込みながら、ワインを開ける。
 サウロさんの出身地であるウンブリア州産の赤。メルロー・サンジョベーゼのブレンド「RUPESTRO」で喉を湿らせた絶妙のタイミングで前菜の冷菜五品が到着した。
 シャンピニオン、シメジ、椎茸の三種のきのこを使ったマリネ二種、山羊のカマンベールチーズ、モッチリした皮の質感が特徴の豚の冷製、トマテ・セッカと大ぶりの椎茸が乗ったカナッペ。
 一つ一つを吟味、それぞれに感想を語りながら、ワインを一口。参加者らは至福の表情を見せている。
 続いて、「ソパ・デ・マンジョキーニャ」がほのかな湯気を立てながら登場する。黄色いソパの上に、オリーブオイルで軽く火を通した椎茸、シンプルなトマトソース、クルトン、ネギの白い部分をあしらったものだ。
 丹精込めて育てた椎茸の思いもよらない形に、米村さんも小さな感嘆の声を上げる。
 ステンレス製のマルミッタ(弁当箱)に入ったポレンタがメイン料理だ。朝から約五時間かけ、ゆっくりと延ばしたもので、滑らかな舌触りが楽しめ、しっかりと味つけした椎茸とひき肉を煮たものに軽く茹でたそら豆が加えられている。 「これは…美味しいねえ~」と大きく頷く大野さん。
 デザートには、ドライフルーツ・ピーナッツのタルト、マスカットのリキュール「サンブッカ」(アニス酒)を垂らしたカフェ。カネーラの先に固めた砂糖がついているのが楽しい。
 参加者の感想を聞きながら、笑顔でテーブルを回るサウロさん。
 「日本の食材は素晴らしいよ。また挑戦したいね」と早くも次の食材を検討中だ。
 実は今回のツアーは二回目。前回は、同じくモジの日系農家の協力を仰ぎ、チンゲンサイ、春菊、小キャベツなどを使ったイベントを実施、好評だったという。
 三キロの椎茸を提供した米村さんは、「椎茸の美味しさを知ってもらういいきっかけになった」と満面の笑みを見せた。
 サウロさんの友人で、日系農家との橋渡し役の小川彰夫さんは、「ブラジルの日系コロニアが作る日本の食材を、イタリア人が料理する―面白い企画ですよね。日系農業の活性化にも繋がれば」と話す。
 イベントの終了を待っていたかのように振り出した雨のなか、参加者らは買い込んだ椎茸を大事そうに抱え、バスに乗り込んだ。(おわり、堀江剛史記者)

写真=料理を運ぶシェフのサウロ・スカラボッタさん/森の中にレストランが出現。アコーディオンとギターが奏でる音色が心地よい



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