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アマゾンを拓く=移住80年今昔=【モンテアレグレ編】=第6回=風に吹かれ、延びる滞在=アカリと壁画に魅せられ

ニッケイ新聞 2009年12月4日付け

 モンテアレグレ取材は、当初0泊2日の予定だった。
 サンタレンから飛行機はあるのだが、定期便がないため、何人か集める必要がある。
 限られた取材費では一人貸し切りは露にも思わず、必然ハンモックに揺られる船上の人に。
 夕方にサンタレンを出て、夜中にモンテアレグレへ。翌日、一日取材をして、夜8時に出る船に乗り、明け方にサンタレン着という強行軍をとりあえず、組んだ。
 高谷信夫、和夫さんの取材を終えたころ、ちょうど昼時になったため、レストランで一緒に昼食を食べることになった。
 アマゾンの定食屋ではメイン料理に加え、米、フェィジョン、マカホン、ヴィナグレッチなどが小皿で数品並び、各自取り分けるスタイルだ。これが韓国料理のようで楽しい。
 太陽が昇るにつれ、刻々と温度が上がっていく。朝から4人を取材、疲れに加え、暑さで背中を汗が伝う。負けないくらい汗をかいている和夫さんの「まあ、セルヴェージャでも飲みましょうか」という言葉に、激しく頷く。
 かしこまった取材よりも、こういう時に出てくるエピソードが興味深いこともある。「日本の日本人と話すのは久しぶりだよ」という二人も昔の記憶を辿り、会話も盛り上がる。
 タンバッキーのコステーラが肴に最高だ。気がつくと、10本近くのビール瓶が並んでいる。しかし発汗が多いためか、あまり酔わない。
 その日に帰ることを聞いた和夫さんの「アカリをご馳走しようと思ったんだけど…」との言葉にまた激しく反応した。
 アカリ―。開高健の「オーパ!」でサンパウロ大学の故斉藤広志教授がブラジルの環境破壊を説明する文脈のなかで、「サンパウロでも昔は、アカリが取れたものですが…」と話していた、と記憶する。
 「どんな魚だろう?」と思ったが、サンタレン、モンテアレグレも釣行した開高の指摘はなく、アカリに小骨があるか知らないが、ずっと喉にひっかかっていた。
 その釣行の水先案内人となった醍醐麻沙夫さんの著書『アマゾン河の食物誌』でそれが明らかになった。
 「―内臓と脳味噌が旨い…サンタレンのものがほろ苦さと甘味がなんとも言えず、内臓は鮎と似た味がし、脳味噌もカニミソのようで旨い」と書かれているのを読み、今回の取材で狙っていたにも関わらず、サンタレンでも機会を逃していた。
 和夫さんは、「モンテアレグレの方が旨い」と断言、「日本に住んでいる子供たちも『アカリが食べたい』と言うんですよ」。何とモンテアレグレの〃古里の味〃というわけだ。
 特に刺身が美味だそうで、「何というか…食感も独特だし、とにかく旨いんですよねえ」と和夫さんは畳み掛けてくるではないか。
 5分ほど、かなり悩んだが、和夫さん宅に一晩、お世話になることにした。 
 ついでにかねて聞いていたモンテアレグレ奥地にある古代壁画について尋ねると、「じゃあ、午前中に壁画を見にいって、アカリをお昼に食べましょうか」。そういってビールをもう1本追加、乾杯した。
(つづく、堀江剛史)

写真=これが「アカリ」だ。ボドー、カスクードとも呼称する

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