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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年2月9日付け

 韓国でマッコリ(濁り酒)人気が高まっているそうだ。首都ソウルの繁華街にも豪勢な居酒屋が店開きし、若い女性フアンが押しかけ、メロンや果実のエキスを加えたカクテルに親しみ、静かに語り合う風景は麗しくも美しい。勿論ーあの白い「どぶろく」を口にし微酔の境地をゆったりと楽しむ向きもいるだろうし、抓(つま)みには激辛のキムチなのかなと思ったりもする▼学生の頃、江戸から続く豪農の息子が友人だったのでよく「どぶろく狩り」と称し押しかけたが、これを井戸で冷やしたのを大きい瀬戸物の茶碗でぐいっと呑み干したときの喜びと口福は懐かしい。お婆ちゃんが鉢に入れて出す肴(抓み)は決まって茄子漬けや菜漬けなのだが、これが濁り酒にはとてもいい。冬だと沢庵と白菜の漬物がよく、倒れるまで大酒し、座敷のガラス窓越しに眺める庭の雪景色が絶景であった▼近頃はブラジルにも日本の濁り酒が輸入され店先に並んでいるし、サンパウロでは韓国系移民らが醸造し呑兵衛らを楽しませ談論風発らしい。これが極上の美酒と聞き及んでいるのだが、真に遺憾ながらまだ口にしたことがなくー胃の腑も味わっていない。その昔には、日本人移民にも「どぶろく造り」の名人がいてよく呑んだものだが、先輩らが物故し、あの快意も遠くなった▼と、寥寥たる心でいたら嬉しい記事が飛び込んできた。鳥取の伯耆町が、過疎化で廃校になった分校で「どぶろく」を造りこの2月中旬には新酒「源流どぶろく上代」を売りだすの吉報なのだ。特別許可を受けての町おこしながら「どぶろく」へと目の付けたのが素晴らしい。(遯)

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