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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年6月22日付け

 日本にも水俣病やイタイイタイ病などの公害病はあるが、今―アメリカ東海岸で起きている原油流失はひどい。TVや写真で見るメキシコ湾には、茶色っぽく黒ずんだ油が流れ、沿岸ではこの原油を少しでも取り除こうと懸命な人たちの姿が何ともいじらしい。ルイジアナ州沖合の石油掘削施設が爆発したのが4月20日。あれから60日も過ぎたが、まだ解決の目処はついていない▼あの地域は大湿地であり、豊かな漁業資源に恵まれている。牡蠣やエビなども豊かだし食に繋がる魚介が多い。地元では「猫島」と呼ばれる無人島はペリカンが卵を産み育てるところとして知られるのだが、今は黒っぽいオイルに羽根を汚され、幼い子らに海に潜って獲ってきた小魚の餌をやれない悲劇も相次いでいる。市民らは、こうしたペリカンを洗浄したりもするが、原油の流れにはとても勝てない▼米政府筋は、1日に6万バレル流失としているが、こうした惨事は、ブラジルの海底油田でも発生する可能性もある。メキシコ湾の爆発は、海底1500mへ伸びる5500mの掘削パイプが折れ油田から大量の原油が噴出したもので作業員11人が死亡し17人負傷している。調査によると、工事に手抜きがあり、これは人が呼び寄せた事故と言っていい▼それでも英BP社は、被害者への補償に200億ドルの基金を設立し拠出するとしたのは評価したい。ただ、この最悪の事故が遺した教訓は重い。オバマ大統領は、化石燃料が軸の現状は、政治的な怠慢だったとし、石油から脱した原発など新しいエネルギー政策に取組むと言明したのは真に大きい。(遯)

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