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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年6月25日付け

 百年史編纂が残念なことに農業編でつまずいてしまった。編纂委員会としては日本移民にとって重要な農業分野だからと、足りない資金の中から大枚をはたき、慎重を期して期限を延期してきたことが、かえって裏目に出てしまったのはまったく遺憾だ。しかし、日本語で最後の移民史編纂という意味で、例えつまずいたとしても百年史の意義は重要だ▼すでに農業編の代わりに進められている『生活と文化1』編には、郷愁を軸とした日系文学論で読売文学賞を昨年受賞した細川周平教授(国際日本文化研究センター)による日系文学史をはじめ、森幸一編纂委員長(USP教授)自身によるブラジルでの日本食の変遷を研究した食の文化史、内田百閒文学賞随筆部門大賞を受賞している中田みちよさんと主婦の高山儀子さんが共同執筆しているコロニア初の女性史など期待の集まる力作が詰まっている。不肖コラム子が執筆する日系メディア史も末席に加えてもらっており、読みどころが多い巻になる予定だ▼一般に百周年は過去のことだと思っているだろうが、編纂委員会にとってはまだ終わっていない。07年9月から毎週会議を行い、08年4月に別巻となる写真集『目で見るブラジル日本移民の百年』(風響社)を刊行してきた▼農業編がつまずいたからといって、それで百年史全体が否定されるものではない。日本移民の血と汗と涙で築かれた日系社会の歴史を日本語で記録に残す作業は、誰かがしなければならない。過ちを反省し軌道修正する産みの苦しみが現在であろう。まずは第1巻を年内に刊行し、コロニアで見てもらう。そこからが本当の評価の始まりだと思う。(深)

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