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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年7月20日付け

 先の日曜日。風呂に浸かりながら「出稼ぎ人」らのことが、ひょいと頭に浮かんだ。日本の不況で帰伯組も多いが、それでも26万人近くがあの狭い列島で額に汗し働いている。若い知人は国費留学し、今は日本の大学の準教授になり、日本とブラジルに関する著作もあり活躍しているが、その一方には子どもの教育で悩み、働き先を探すのに苦労している人もいっぱいいる▼と、必ずしも楽天ばかりとは言えないし、それなりの辛苦はあり、天国にはなかなかに遠い。そして―真に困るのは、「出稼ぎ人」とその子弟らの犯罪の多さである。コソ泥に始まって強盗や殺人と、際限もなく広がるのは、同じ大和民族の血を継ぐものとして哀しくも情けない。日本で人を殺し、ブラジルに逃亡し、懲役34年かの判決を受けたものもいれば、先頃は宝塚市で15歳の少女が、両親が寝ている自宅へ放火し、母親が死んでいる▼言葉、習慣、そして文化の違いが原因なのだろうが、これは一世移民がブラジルに来たときも同じであり、少なくとも―こんな犯罪多発はない。勿論、戦後になると、ガルボン街や麻州での殺人事件はあるが、被害件数から見れば、邦人被害が圧倒的に多く、日系人が加害者であるのは極めて少ない▼それなのに何故―日本では犯罪が多いのかとなると、これはもう道徳の不足に尽きる。物を盗むなの考え方が身についていないのだ。このために、安易に万引きに走り、人をも殺めるの図にもなる。これは一世移民の「躾」と文化伝承の欠落した部分―つまりモザル・ハザード(倫理観の欠如)と見てもいいのではないか。(遯)

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