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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年7月29日付け

 静岡、山梨日日の両紙が「富士山新聞」を発行したことを本紙24日付けで紹介した。本紙を通じて応募した俳句や川柳も掲載された。90万部を配布したというから、ブラジルに住む日本人の心のよりどころとなっていることを多くの読者が感じたのではないか▼発 行の主旨は、世界遺産登録の機運をめることだとか。地元では「富士を世界の舞台に」の気持ちが根強いようだ。これを選定するユネスコのHPによれば、「登録により保有国と国際世界において保護する義務が生じる」のだそうだが、いまいちよく分からない▼ちなみにブラジルの世界遺産数は17。取材や旅行で半分以上を訪れたが、いわゆる「ガッカリ世界遺産」もあるし、そう呼ぶにはおこがましいほどの神々しさを持ったものもある。富士山は後者に属する、と実感する▼新聞を読み進めていくと、レジストロのリベイラ富士、パラグアイのコルメナ富士も紹介される。各国に住む日本人もしくは移民らが郷愁をまじえて呼んだものだ。富士山=日本。他の国民にとってこういう存在はあるのだろうか▼太宰治は「富嶽百景」のなかで、山の傾度が北斎の絵などと比べ、実際は緩やかであることを指摘してこう書く。「たとへば私が、印度かどこかの国から、突然、鷲にさらはれ、すとんと日本の沼津あたりの海岸に落されて、ふと、この山を見つけても、そんなに驚嘆しないだらう。ニツポンのフジヤマを、あらかじめ憧れてゐるからこそ、ワンダフルー」▼十把ひとからげの世界遺産登録よりも、日本人の血肉にしみついたこの敬愛こそを、世界に誇るべき、と思うのだがどうか。(剛)

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