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盛和塾=全国大会で久枝さん最優秀賞に=稲盛哲学を農業で実践=3人目は海外塾で初めて=「僕なんかで申し訳ない」

ニッケイ新聞 2010年9月30日付け

 6千人近い企業代表が学ぶ日本有数の経営塾である、稲盛和夫氏(京セラの創始者、現名誉会長)が塾長を務める盛和塾が7、8両日、神奈川県のパシフィコ横浜大ホールで第18回全国大会を開催し、ブラジル盛和塾の久枝俊夫さん(60、愛媛県)が最優秀賞に選ばれた。当日は日本全国、アメリカ、中国、ブラジルなど全62塾から約3400人が来場する中、8人の代表者による体験発表が行われ、その中で栄冠を獲得した。盛和塾ブラジルからは3人目の快挙となり、海外の塾としては初めて。

 久枝さんは75年に観光ビザで渡伯した飛行機移住組。南マット・グロッソ州で農牧業を始め、事業が拡大するにつれ経営のノウハウの必要性を強く感じ入塾、稲盛塾長の話をテープで聴きながら1100キロ離れたサンパウロ市での月例会に通った。
 季節労働者の雇用問題による罰金の精算に追われて農場にテントを張り、近くの小川で風呂を済ませた時期もあったと振り返る。そんな時でも黙々と「税金を払う」「社員の幸福を考える」「判断基準は公明正大」「ごまかしや卑怯な振る舞いは改める」という稲盛哲学実践を心がけた。
 久枝さんは「事業は着実に成長、現在は収益の8割にあたる牧草種子生産で、マメ科の牧草のブラジルシェア7割を占める」と胸を張る。また遺伝仕組み替え、化学肥料、除草剤、殺菌剤等の使用による作物、人体、地球環境への影響を考慮し自然農法、養鶏、果樹栽培等による安全な食料の供給に努め、農場には国外からも賛同者が教えを請いにやってくるという。その土地で収穫したものを地元で消費する「地産地消」も進める。
 全国大会当日、久枝さんは「利他とやさしさを持ち、次世代のため、自然と人類との共存共栄という考えをブラジルで貫こうと決心した」と発表した。稲盛塾長はそれに対して環境悪化による食糧危機を懸念していると共感し、「素晴らしい発表。まるで映画を見ているよう。自分の農業への思いを実践してくれている人がいる事に感動した。ぜひ今後とも頑張ってもらいたい」と賞賛のコメントをのべたという。表彰式では賞状、記念品を手渡した。
 久枝さん以外の体験発表では建築、油圧装置設計、業務用冷凍冷蔵庫製造販売、服地商社、美容室など幅広い分野から出場し、いずれも優れた実践例を紹介した。
 授賞後、久枝さんは「僕なんかで申し訳ない」と謙遜しながら、「できることを一生懸命やれと言われている気がする。一人の力では限界もあるが、今は気合充分で、誰にも負けない努力をしていくつもり」との喜びを語った。
 72塾生がいる盛和塾ブラジルの代表世話人・板垣勝秀さんは「経営者は常に判断を迫られる孤独な立場。異国で苦労を重ねる中、塾長の哲学を実践している。そんな塾生は仲間であり、心の支え」と感慨深げな様子。
 当地の盛和塾からはすでに二宮邦和さん(農薬メーカー経営、当時)、山田勇次さん(バナナなど熱帯果実栽培)が最優秀賞を受けており、3人目は海外の塾としては初めて。板垣代表世話人は「3人目は大変名誉な事で誇りに感じる。そんな仲間が周りにいる事が幸せ。彼の発表は他の経営者に大きな勇気を与えたはず」と称えた。

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