古くて新しい中絶合法化問題=ジウマ当選阻んだ一要因=態度変えれば二枚舌の批判=苦悩する容認派のPT
ニッケイ新聞 2010年10月7日付け
統一選一次投票での当選を逃した労働者党(PT)のジウマ・ロウセフ大統領候補が、中絶問題に関し、中絶合法化に反対する立場を打ち出すと6日付伯字紙が報じた。中絶合法化問題は、個人情報漏洩問題、ジウマ氏の右腕だったエレニセ・ゲーラ元官房長官絡みの汚職事件と並び、一次当選を阻んだ要因の一つとされている。
投票日直前に再燃し、ジウマ氏支持票まで緑の党(PV)マリーナ・シウヴァ氏に流れる原因となったとされる中絶合法化問題は、決選投票に向けての戦略会議などで、PTや民主運動党(PMDB)関係者から立場を明確にするよう求められた問題でもある。
一部関係者は早くから同問題は選挙戦の行方にも影響すると忠告していたが、その重要性を軽く見ていたPTやジウマ氏は問題再燃に慌て、9月29日にキリスト教界の指導者達を招いて釈明。しかし、ジウマ氏が07年に合法化を行うべきだと発言していた事や、選挙公約でも合法化に触れていると知る人々にとって、投票直前の「自分はカトリック信者で命の尊厳を重視している」との発言は、得票のための前言撤回ととられた。
事態を重く見たブラジル全国司教会議(CNBB)などの団体は、〃命の尊厳キャンペーン〃を再開し、9月30日付サイトで同氏の態度豹変を批判している。
同キャンペーンでは、保健相時代の1998年に、強姦による場合と母体に危険が及ぶ場合の公立病院での中絶手術を認めた民主社会党(PSDB)のジョゼ・セーラ大統領候補も批判しているが、カトリック信者や福音派クリスチャンが多いブラジルでは古くて新しいのが中絶合法化問題だ。
4、5日開催の決選投票への戦略会議で、合法化反対が明確になれば同問題の影響は薄れると判断したジウマ陣営では、テレビの政権放送で中絶反対を宣言する事などを決めたという。
しかし、PT内で合法化反対を唱えたために1年間の党員権停止となったりしたため、09年9月にPVに移籍したルイス・バスーマ下議は、自分への罰則はほぼ満場一致で決まったと証言。PT内にも合法化反対派は居るが、ジウマ氏が選挙のために自分の立場を変えるなら、結果は自分に返ってくるとも発言した事は6日付エスタード紙が報じている。
どんな理由であれ中絶は罪とするカトリックでは「ジウマ氏もセーラ氏も中絶容認派だが、セーラ氏の方がまし」とする発言もある中、マリーナ氏不在の決選投票で環境保護派や中絶反対派の票がどちらの候補に流れるかの判断は難しい。
バスーマ下議やリオ州知事選で破れた同じくPVのフェルナンド・ガベイラ氏は既にセーラ氏支持を表明しているが、マリーナ氏や党が大統領選で誰を支持するかの結論はまだ出ていない。