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世界の穀物生産地を3極へ=日伯農業の新世紀〃開拓〃=プロサバンナ計画明らかに=4月から本格研究開始

ニッケイ新聞 2011年2月1日付け

 セラード開発のノウハウをアフリカに——。ブラジル農業を世界に冠たる大穀物生産地に飛躍させたといわれる70年代からのセラード開発の経験を、日伯政府が協力してアフリカのモザンビーク西部の大サバンナ地帯・ナカラ回廊に移植するプロサバンナ計画がこの4月から本格的に始動するにあたり、国際協力機構(JICA)研究所の細野昭雄上席研究員、本郷豊客員研究員が1月28日午後、サンパウロ市内ホテルで記者会見を行い、概要を明らかにした。

 「セラード開発はブラジル農業の突破口になった。どうしたらそれが他の地域に適応できるか」。そう本郷研究員は切り出した。その解析のために上は元大臣から現場の農家まで、この一カ月余りの間、研究員2人は全伯を駆け回って話を聞いた。その成果はいずれ本として出版される。
 60年代までブラジルは主要穀物の輸入国だった。当時の世界の大穀物生産地帯(トウモロコシ、大豆、米、小麦など)は米国のみだったが、70年代のセラード開発によってブラジルが仲間入りして二極化した。06年には農業界のノーベル賞といわれる世界食糧賞(World Food Prize)をセラード開発関係者が受賞し、「20世紀における農学史上最大の偉業」と評価された。
 日本政府は技術のみならずセラードに600億円を投資し、東京都の1・6倍の面積を開発した。コチア産組はもちろん南伯産組まで乗り出して入植者を送り込んだ。それまで「不毛の地」と呼ばれていた熱帯乾燥地帯は、土壌改良されて穀物・畜産・養鶏など多様な生産が可能な農地になり、農産品大輸出国に転換し、世界の食糧安保を左右する存在になった。
 その経験を活かして、今度はアフリカを仲間入りさせて三極化させようという構想だ。そのためプロジェクトの目的の第一に「世界の食糧安全保障」が掲げられると同時に、地元住民の飢餓問題解決となっている。
 09年9月から昨年3月までに日伯で基礎調査が行われ、ルーラ大統領の任期最後のモザンビーク訪問となった昨年11月に調印、今年4月に日本から長期専門家が派遣され、本格的な品種・技術移転研究が始まる。
 ナカラ回廊はセラードとほぼ同じ緯度上にあり、ともに熱帯乾燥地帯。「元々一つ大陸が分かれて南米とアフリカになったから気候も地質、植生も近い」と本郷研究員は地理的優位性を説明する。しかも同じポ語話者の国であり、「温帯作物をセラードに合うように品種改良されたものが、たくさんブラジルにはある。そこから選んで需要のあるものを移植するわけです」と「後追いのメリット」を強調する。
 ルーラ大統領は一人で、それ以前の大統領全員と同じくらいの回数、アフリカを訪問した。未来のパートナーとして重要視していることは間違いない。そこに今回、日伯共同で初めて具体的な大規模計画が描かれた。
 日伯両政府合わせて今後5年間(第一期)で約10億円を投資する。予定地は全て公有地で、最大50年間の借用期間を設定して農業地として開発していく。モザンビーク政府からは「現地零細農の生活レベルを上げて欲しい」「現地の食糧分だけでなく税収を上げる輸出作物も」との要望が挙がっている。日伯両側にとって、まさに新世紀農業ビジネスの〃開拓地〃になりそうだ。

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