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ブラジル製糸企業の最後の生き残り=創業71年のブラタク製糸=厳しい生糸生産で続ける努力=「希望捨てず、生き残る術ある」

ニッケイ新聞 2011年2月18日付け

 今年創立71年を迎えるブラタク製糸株式会社(天野アントニオ・タカオ社長)はブラジル拓植組合の製糸部門が独立したものだ。昨年同業者が業務を停止し、ブラジル唯一の機械製糸企業となった同社だが、長年の輸出為替のレアル高、世界的な生糸消費の落ち込み、ブラジル繭生産の減少、中国製品の市場席巻が襲う。そんな中、「為替に影響されない高品質製品の製造を目指し企業努力を続け、『正直な仕事をすること』『モノ作りは品質で競争力をつける』」との信念を掲げるバストス工場を小森義彦工場長に案内してもらった。

 工場敷地内に入ると、若干鼻腔を刺激する独特な匂いがする。「繭のタンパク質の匂いです」と小森さん。
 まずは繭に下から光をあて手作業で選別する。病気で死んで黒くなった物、2匹の蚕が入った物などは品質が落ち安価な糸として販売する。
 続いて、自動操糸機がズラリと並ぶ部屋に入る。じっとりとした空気が纏わり着く、一気に部屋の湿度が上がった。
 20分程100度の湯と蒸気で煮繭して糸先を見つけやすくする。30メートル程の操糸機が並び、繭から繭糸を引き出し、抱合して生糸にしてゆく。それらの作業は機械化され、室内には絶え間なく稼動音が響く。
 「繭はどこも捨てる所は無い」という小森さん。糸を剥がされた蚕は魚のエサとして、透明な薄膜は絹紡糸の原料としてそれぞれ販売する。
 糸の太さはデニール(D)で標記され、「1デニールは450メートルで0・05グラム」と質量で計算する。同工場では9Dの極細から3000Dの極太までを顧客の要望にあわせて生産している。
 その生産の幅も強みの一つ。その他、個別差の大きい繭糸を均一度の高い生糸に仕上げる技術にも磨きをかける。
 同社はフランスの高級ブランド『エルメス』のネクタイ、スカーフなどのシルク製品の原料の90パーセントを占めているという。
 生糸は水分を安定させるため2日寝かせた後、5キロの束にして糸商に出荷、1束250ドル程で販売される。
 例えばスカーフ1枚は生糸10グラム程から織ることができるという。製品に付加価値が付いて値段が跳ね上がる。原価はそれほど高くなく、原料生産者には見返りは多くはない。
 現在バストス、ロンドリーナ両市に工場を持ち、従業員1130人を抱える同社。最盛期の1996年には1392トン、2006年までは1千トン以上の生産量を維持していたが、昨年は627トンまで落ちた。
 製品の95パーセントが輸出で相手国は日本、フランス、イタリア、ベトナムなど。
 しかし、輸出国での生糸消費の減少もリーマンショック以降さらに進む。レアル高により輸出が鈍り、逆に国内では安価な製品、完成品が出回り内需は期待が薄い。また、養蚕はブラジル人の農業離れの影響をもろに受け、繭の国内生産が落ち込んでいる。その煽りを受け同社は2009年にドアルチーナ工場を閉鎖している。
 そんな中、小森さんは「相場に左右されない高品質なものを作る努力を続けていく。生糸の消費自体は無くならないもの。希望を持ち生産コストを下げ一つ一つ問題を解決していく、生き残る術はある」と語った。

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