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会議所昼食会=「今後10年は成長路線」=鈴木孝憲氏がジルマ政権占う

ニッケイ新聞 2011年3月10日付け

 著書『2010年のブラジル経済』(日本経済新聞社刊)を出版したばかりの鈴木孝憲さん(元ブラジル東京銀行頭取、ビジネス・コンサルタント)が、2月11日のブラジル日本商工会議所(中山立夫会頭)の定例懇親昼食会で講演し、前政権から引き継いだ〃遺産〃と課題を分析した。
 最初に「昨年の経済成長は7・5%を達成し、国民の大半が幸せを感じられる国になったのはルーラ政権最大の功績」と持ち上げつつも、「高成長を続けたゆがみがでてきた」と警告する。
 ゆがみの一つ目は公務員給与などが増大し、政府の財政支出が07年以降に急増し、財政の基礎収支が昨年は実質赤字だったこと。新政権はその改正を進めている。ただしギリシア、ポルトガル、スペインなどの国々とは比較にならないぐらい良い状態だという。
 二つ目は経常収支の赤字が大型化してきていること。輸入が増え、レアル高で輸出競争力が抑えられている。ブラジル人は昨年海外旅行で100億ドルも買い物している。
 三つ目は国際比較で、ブラジル内の物価が異常に高くなっていること。マクドナルドのビックマック指数が世界一高い。サンパウロ市の五つ星のホテルの一番安い部屋が東京の帝国ホテルよりも遥かに高い。「この物価のままで続けられるとは思えない」。
 四つ目は不動産価格が物凄く上がっていること。サンパウロ市ジャルジン・アメリカ区では昨年末までの5年間で、アパートを中心にした不動産価格(コエーリョ・フォンセッカ調査)が280%も上がった。つまり3・8倍になった。サンパウロ市全体で見ても過去24カ月間で46%上がっており、「上がりすぎている」と指摘した。
 その背景には中間所得層Cクラスが増え、持ち家需要が増加したことがある。加えてクレジット利用が05年以降の5年間で金額ベースで13倍増。今までは10〜15年で支払っていた住宅ローンを30年に延ばす動きもあり、需要に拍車をかけている。しかし住宅ローンの年率金利は10・5%もあり、「それを30年も抱えていたら大変」と警告する。「まだバブルまでは行かないが、その入り口まで来ている」と現状分析する。
 今後のジウマ政権の先行きに関しては、レアル高の問題に対する政策が出てくると予測する。「このままだと為替から目が離せない。1ドル1・6レアルに向かってジリジリ値上がりが進んでいく」。大量のドルが外国から先物市場に入ってきていて、これが株式や国債の市場に影響している。先物の方が6倍もの動きがあり、株式市場を動かす形になっている。IOF(金融取引税)引上げよりも先物でドルを売ることを制限するとか、ソブリン・ファンド(国家運営基金)が先物市場に介入するとかがありえるとする。また、税制改革や年金改革の問題も控えている。
 現在までのジウマ政権に関して「綱紀粛正、規律がピシッとしている。従来と違って金曜日も通常通りに仕事をしている。閣僚への指示に関して回答期限をきっちり設け、時間も厳守している」とし、「予想以上にしっかりやっている」と高く評価する。
 ルーラ政権のゆがみを正しながら成長路線を保つことが課題とし、2015年、16年にはプレサルによる石油輸出が本格化すると予想する。世界の農産物価格が今後上がっていくと人類にとっては大変な問題だが、ブラジルにとっては「切り札」になると見る。「これから10年、予想通りに着実に成長路線を歩んでいける」と結論付け、2020年にはGDPは世界5〜6位になる可能性が高いとのべた。
 「日本勢としてこのブラジルとどう付き合っていくか。中堅以下の進出希望の企業をどうオリエンテーションしていくのか」とし、「日本企業としては、長期的な戦略をもって対応することを期待しております」と締めくくった。

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