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「第3の波」到来か=ブラジル進出企業の今を追う=《2》=日本の牛丼をブラジルに=「すき家」2年目の挑戦

「牛丼はどんぶりを持って食べるのが一番美味しい」とこだわりを力説する高山社長

 ここ数年の進出企業には外食等のサービス産業の存在もあり、ブラジル市場の充実化が見てとれる。1千450店舗を有し、売上ともに日本一を誇るゼンショーグループの牛丼チェーン「すき家」は3月、サンパウロ市のブラジル第1号店オープンから1周年を迎えた。目下100店舗に目標を据え、同月1日には2号店を開店。ブラジル人に馴染みのない牛丼で日本の味の再現を頑なに続け、2月には調理工場も稼動し始めるなど、本格的な展開を見せている。現地法人ゼンショー・ド・ブラジルの高山孝之代表取締役社長にこの1年での変化、今後の展望を聞いてみた。
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 「100店舗をできるだけ早く」—
 同グループ系列の「なか卯」(約480店舗)の元社長で昨年11月に着任した高山社長は、そう目標を掲げる。
 そのためには10店舗を超え、チェーン店としての物流、購買等のスケールメリット(規模の利点)を生みだす事が早急の課題だ。
 1号店は地下鉄サンジョアキン駅近くの学生街に、2号店はビジネスマン向けのパウリスタ大通り付近に出店したが、「この価格でこれだけのものなら一度食べて頂けたらどの客層でも受け入れられる」と高山社長は自信を見せる。
 全店舗直営での営業を考えており、税制面での負担もあるが、「方針の統一、浸透を図る」ことを優先しフランチャイズは基本的には行わないという。展開は州全体、リオ方面も視野に入れてゆく考えだ。
 日本で牛丼日本一が見え始めた2008年に次なる市場としてブラジルの調査を始めた。
 中国には16店舗(11年3月現在)があり、海外進出としてはブラジルが2カ国目。潜在的な需要、成長が見込め、日系人の存在もあり日本食にも馴染みある人が多く、まとまった人口と若者が増加傾向にあるブラジルに目を付けた。その点でいえば中国より見込みが大きいとも。
 市場の難しさは牛丼の認識の無さにあるが、その中でも「ブラジル風の牛丼を作る」のでなく、日本の味を追求することにこだわりを見せる。
 開店当初はナイフ、フォークを使うブラジル人向けに反り返った皿を食器に使用していたが、3月からは日本と同じ丼に変えた。
 「牛丼は丼を手で持って匂いを嗅ぐ、そこから米、肉、タレを一緒にかきこむのが一番美味しい食べ方なんです。だからやっぱり丼で食べないと」と高山社長はこだわりを力説する。
 統計はないが、約8割の客が箸を使用している状態といい、サンパウロ市での日本食普及の恩恵も受ける。
 それ以外にも、一見すると気づかない変化がある。
 「実は米、肉も変わっているんです」
 1月中旬から米を日本と同じジャポニカ種に変え、精米したてのものを直接仕入れ、鮮度も高いまま提供されるようになった。
 2月には市内に30から50店舗をカバーできる規模の調理工場を立ち上げ、スライスの精度も向上した。
 米、肉の微妙な厚さや切れ味の違い、食器も含めた全体のバランスで味が随分違ってくるという。「本当に美味しくなりました。一度食べてみて下さい」と話した。
 目指す100店舗に向け、「最初の10店舗で問題点を洗い出し、誰とどうすればいいのかパートナー探しをする」と高山社長。「知名度も上がり、日系企業以外との取り組みも増え勢いがつけば、情報も素早く入り店舗拡大のスピードアップが図れるだろう」と、始まったばかりの挑戦に楽しみを感じるように語った。(つづく、宇野秀郎記者)

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