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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年5月27日付け

 自分の身は自分で守るのがブラジルの流儀——サンパウロ市のクリニカス病院といえば、当地の公立医療の最高峰とのイメージが強い。しかし、そのような立派な病院でも人為的ミスは起きえる。肺の持病の関係で最近、公的医療サービスに世話になりつづけている。待たされることはあっても、総じてサービスの質は悪くない。でも、そんな場所ですら前述の心構えは処世術の基本だ▼医者の処方箋をもって、まるで体育館のような巨大な薬局で1時間半ほど待たされて薬を受け取った。すぐにその場で数量を確認。自宅に帰って改めて薬を確認すると、渡された薬の束の1枚目だけが合っていて、2枚目以降がまったく別の薬だったのに気付いた▼包装がよく似ており、薬剤名の最初の二文字までは同じだが、それ以降がまったく違っている。おそらく包装と薬剤名の最初だけをみて、別の薬を入れてしまったのだろう。USP医学部の大学病院であり、薬学部の学生なども薬局を手伝っているのかとも推測した▼翌朝一番で薬局に戻って、窓口の白衣の女性に伝えると「あら気付いてよかったわ」とあっさり言われた。正しい薬を渡された上で、「ごめんなさい」と謝ってくれた。おそらく優秀な人材だろう。忙しいとか不注意とかそんな理由に違いない▼でも、もし気付かずに飲んでいたらどうなっていたかと思うと、少々薄ら寒い気がした。間違った薬を配った人名が入った書類だけが別の名前のものに取り替えられた。書類だけ見たら何事もなかったかのようだ。部内で当人を反省させる機会をもってほしいものだが、自分の身は自分で——かとも思った。(深)

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