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日本庭園は神秘、魔法=魅せられて20余年=サルキス氏が講演で語る=ポ語初の写真集も出版

ニッケイ新聞 2011年7月1日付け

 「物質主義がはびこる今の世界だからこそ、尊敬や謙譲の精神が溢れる日本庭園をブラジル人に知ってほしい」——。そう情熱をもって語るのは、サルキス・カロゥスチアンさん(58)。昨年12月、ポルトガル語初となる日本庭園写真集『Jardim Japones – A magia dos jardins de Kyoto』(K出版、223頁、159レアル)を出版、講演活動などでその魅力を伝えている。

 日本庭園との出会いは、現代建築を学ぶため、文部省留学生として京都大学大学院へ進学した1987年に遡る。
 4年間の滞在で町並みや芸能、そして日本庭園の中にある繊細だが、発想豊かな日本文化に触れた。
 西洋庭園では何百種類もの木を使い、煌びやかに飾り立てる。日本では4種類ほど。しかし、季節の変化や構成の仕方で、それらは無数の表情を見せる。
 「こうした発想や技術はほかでは見たことがなかった。たった一枚の能面が、角度を変えると怒りと悲しみの表情に変わるのと同様に大きな驚きを覚えた」
 石庭で有名な龍安寺での体験がその後の人生を決定づける。
 決まった解釈はないという石庭をじっと眺めていると、心が別世界に吸い込まれていく。精神性を重んじ、内省へと誘うその体験をサルキスさんは、「神秘的でまるで…魔法にかかったようだった」と表現する。
 日本庭園の魅力をブラジル人に伝えようと決め帰国したのは93年。その思いを忘れることはなかった。子供が手を離れたのを機に、念願の写真集の制作に取り掛かる。
 留学時に撮り貯めたものに加え、休暇をとって3度訪日し撮影した460枚を収め、昨年の出版にこぎつけた。
 現在、UNINOVE大学の建築学科で教鞭を取る。「一般人も見学できる日本庭園をブラジルにも造ることができれば理想的。注文さえあれば、喜んで設計を手がけるよ」と鑑賞だけに留まらない意欲を見せる。
 21日にリベルダーデ区であった講演には約60人が訪れた。造形作家のフェリペ・エデルさん(36、サンパウロ市)は、「日本庭園は象徴的で哲学的なところが魅力。ブラジルにはない空間の構成方法を学び、制作に生かしたい」と真剣な表情を見せていた。

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