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CIATE合同研修会=徳大の樋口准教授が講演=デカセギ「日語と人脈が鍵」

ニッケイ新聞 2011年9月2日付け

 国外就労者情報援護センター(CIATE、二宮正人理事長)ら5団体が主催する合同研修会が8月20日、同センター事務所で開かれ、元デカセギ労働者を中心に27人が集まった。なかでも、アルゼンチン人やペルーを対象にデカセギの状況を調査研究している徳島大学総合科学部の樋口直人准教授は、「日本語の能力や人的ネットワークの範囲が職種に影響する」という仮説を、データや例を用いながら説明し、聴衆は熱心に聞き入っていた。

 まずコンサルタント会社のレナート・ブツエン社長が、当地の求職活動について講演した。労働市場について「経済成長、雇用の拡大、最低賃金の上昇など明るい兆しにある」と説明する一方、元デカセギについては「すぐに日本に帰るイメージがあり企業が雇用したがらない。ビジョンや市場の知識も無い」との傾向をのべた。
 求職活動においては面接や試験等への準備を入念に行うこと、日本での就労で積んだ経験、生活環境の違いを乗り越え適応したことに自信をもち、それをアピールすることの重要性を説いた。
 続いて樋口氏はまず、08年9月〜09年7月をピークに3年間で日本のブラジル人労働者が3分の1も減って22万人を切っていると述べ、「この減り方は世界的にみても激しい」と説明。
 米国などの移民大国では5〜10年ほどで徐々に状況が改善するのが通常だが、日本のデカセギが大量解雇に遭ったのは「雇用形態が20年経っても派遣労働だった結果」と述べた。
 日本の失業率はここ数年4〜5%の間を推移している一方、自治体の調査結果によると滋賀、浜松、岐阜などに住むデカセギの失業率は40%台だったと説明。「外国人が真っ先に解雇されるのはどの国でも同じだが、日本は他国と比べ国民と外国人移民の失業率の差が大きい」と指摘した。
 現在のデカセギが置かれた状況を改善するためにできることとして、職業訓練を受け正社員の職に就くこと、事業を起こすことなどを挙げた。
 また05〜09年に樋口氏が行ったアルゼンチン人のデカセギの調査では、彼らが従事している944件の職のうち正社員として就いているのは4件のみだったという。
 「長く働いても正社員登用への道は開かれず、転職経路は友人、家族の紹介が6割。人的ネットワークはデカセギ内に留まっている」との現状をのべ、日語能力と人脈が職種に影響するとの仮説を説明した。
 また00年の調査で「中南米出身の労働者はアジア、中国、韓国、中東出身者に比べ、条件が整っているにも関わらず事業を起こしている人が少ない」と述べた。
 さらに、外国人労働者に対する日本政府の対策の遅れを指摘。「政府は何もしてくれない。日本語を学ぶ、日本人の人脈を作るなどして、自分の身は自分で守るほかない」と締めくくった。

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