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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年9月21日付け

 かつてフジモリを取材するために南米移住して邦字紙「ペルー新報」に数年務めた三山喬さん(50、神奈川)は、先ごろ『ホームレス歌人のいた冬』(東海教育研究所)を出版した▼08年暮、朝日新聞の歌壇欄に彗星の如く登場し、たちまち常連になった「ホームレス歌人」公田耕一を探して横浜のドヤ街を彷徨う入魂のルポだ。この歌壇には毎週約3千首も投稿があるが、わずか40首しか掲載されない。この異色の歌人は当時話題となったが、姿を現さず謎を残したまま9カ月で消息を絶った▼三山さんは東大卒業後、朝日新聞東京社会部で働くが、ドミニカ移民の訴訟問題を取材したのを機に、エリート街道から決別して同社を去り、南米へ。朝日を辞めて弊社に入社した別の記者が「給料が100分の1になりました」と言ったことがある。邦字紙とはそれぐらい違う▼三山さんは数年前に南米生活を切り上げ、今は東京でフリー記者となり月刊『文藝春秋』などを舞台に活躍する。菅元総理が市民活動家時代に弟分だった田上等さんが現在路上生活をしているとのルポを発表して話題になった。片や首相、片や路上生活者、その対比はあまりに鮮明だ。「田上は半分、私かもしれない」と自分を重ねる場面は白眉だ▼驚くことに日本の路上生活者は朝6時までに起床し、商店が開く前にダンボールの寝床を撤去する約束事があるとか。昼でも歩道にはみ出して死んだように寝たままの当地の様子を見るたびに、彼らが心に沁みる短詩を詠むなどのロマンチックな幻想はここでは通用しないと痛感し、〃根底〃から文化が違うのだとしみじみ思わされた。(深)

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