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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年11月18日付け

 「〃島流し〃された時の証言を撮影するために、じいちゃん(日高徳一さん)をアンシェッタに連れて行った。小さなボートで島を離れる時の場面を編集しながら、何度も涙が出てきてしょうがなかった」。11年がかりで勝ち負け抗争の証言映画『闇の一日』を完成させたイマージェンス・ド・ジャポン社の奥原マリオ潤代表は、思い出すだけでうっすらと涙を浮かべる▼脇山大佐殺害事件の実行者の一人、サンパウロ州マリリア市で自転車修理業を営む日高徳一さん(85、宮崎)は、かつてマスコミとは話をしなかった。日高さんが心を開くようになったのは、奥原さんが足しげく通って親交を深めたからだ。本人が話したくないことを聞かせてもらう場合、特にデリケートだ▼その点、奥原さんは終戦後65年間、日系メディアの誰もが成しえなかった仕事をした。従来は負け組側に偏っていた移民史が、両側の視点に広がった。その土台があったから、弊紙が脇山事件の真相を追った連載『65年前の恩讐を超えて』の取材もできた▼またブラジル映画『Coracoes Sujos』(国賊、ヴィセンチ・アモリン監督)も完成し、一歩先にパウリニア市で先行上映会が7月に行われた。日本から有名俳優を呼んで撮った大作だけに、話題になるのは間違いない。その一般公開前に完成させたかった、と奥原さんはいう▼彼は日系三世の視点から勝ち負け抗争をブラジル史の一部として位置付けたという。そのような視線が日系社会内に広まることは、とても重要だ。と同時に、この証言映画をぜひ国際映画祭などに出品して欲しい。所縁のある地方日系団体で上映会を企画したらどうか。(深)

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