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「彼らは強く生きる渡り鳥」=デカセギ子弟の軌跡追う=ドキュメンタリー映画『孤独なツバメたち』=今日午後、文協で上映会

ニッケイ新聞 2012年3月14日付け

 日伯両国間で揺れ動きながら、自分の居場所を求めて生きるデカセギ子弟5人の軌跡を追ったドキュメンタリー映画『孤独なツバメたち〜デカセギの子どもに生まれて〜』(2011年)の上映会が本日14日午後4時から、文協ビル小講堂で開かれるにあたり、監督を務めた浜松学院大学現代コミュニケーション学部の津村公博教授(50、東京)、中村真夕さん(38、京都、映画監督)が12日に来伯した。「テレビで紹介されるのは、日本で高校や大学に進学する一握りの人。普通の青年たちの軌跡を追うことで、彼らが置かれた社会的背景を浮き彫りにしたかった」と制作の経緯を語り、多くの来場を呼びかけた。入場は無料。

 「親は常に帰国という選択肢があるが、子供にはない。デカセギの子供だから工場で働くのは当たり前という認識」と、多文化共生などを専門とする津村教授は語る。
 そんな彼らが20歳頃になって初めて自分の可能性を見出す。「反社会的になるのではなく、今ある状況下で自分のベストを尽くそうとしている」と続ける。
 静岡県西部地域の大学生が主体となり南米日系人の子供の生活適応や学習を支援する教室が開設され、「2年目から中学をやめて違法就労する子供達の存在を知り、問題だと思った」
 04年から教室の子供等を対象に調査を始め、浜松市にも共同で本格調査の実施を提案したが「そのような実態はない」「調査そのものが不可能」との回答を受け、06年から自ら同市を中心とした夜間の路上を歩き、浜松国際交流協会と合同で調査を開始。声をかけた青少年は400人に上ったという。
 一対一の対面調査や複数の青少年が同じテーマを話す討論会を実施し、映像で記録。参加した青少年のうち5人の生活を追い始め、08年夏からテレビ番組の取材で中村さんが同行するようになったが、同年のリーマンショックで多くが帰国する事態となった。
 その後出演者自らもカメラを持ち、中村さんも2010年に渡伯して撮影を行い、彼らの約2年半の軌跡をまとめた。全員四世で、ブラジルで生まれ幼い頃に来日、あるいは日本で生まれ育った15〜22歳の若者たちだ。
 中学卒業か中退した状態で働き、行き場がなく非行に走ったりアルコールに溺れた過去もありながら、それぞれが新たな道を歩もうとしている。
 「皆まじめで能力も高い。ただ家庭環境で道が反れてしまっただけ。彼らの生き方を日本の若者に見てほしいと思った」と中村さん。「誰かと親密になっても、いつか別れることを覚悟している。厳しい環境でも明るく前向きに生きる姿がいじらしく、いとおしい」
 「単なる学術的な場で報告するための記録ではなく、一般上映でより多くの日本人に見てもらえる形にしたかった」と津村教授。今後は、彼らのその後を追った続編の制作も考えているという。
 作品は二人が帰国後の20日に浜松市で上映され、その後は東京、浜松の映画館を皮切りに日本各地で開かれる「ブラジル映画祭」で特別上映されるほか、全国で順次公開される。
 上映終了後は二部制でシンポジウムが行われ、一部は出演した若者たちと中村さん、二部は津村教授やCIATEの二宮正人理事長、「カエルプロジェクト」の中川郷子コーディネーター、ISECの吉岡黎明会長らが出演する。

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